研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04972
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
香月 興太 島根大学, 研究学術情報本部, 講師 (20423270)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南極 / 湖沼 / 珪藻 / 古環境 / 近過去 |
研究実績の概要 |
東南極リュッツホルム湾宗谷海岸の露岩域であるスカルブスネス,この地域で採取された低地湖沼・子池およびその周辺地域の珪藻分析を行った.子池はスカルブスネスの内湾であるオーセン湾に面した湖沼であり,水深約8mの小型季節結氷湖である.本研究で用いた試料は投げ込み式グラビティ―コアラーで採取した30cmの堆積物で,コア底部の年代は507 cal. yr BPであった.この湖沼で産出した珪藻群集は,コア全体を通じて90%淡水生珪藻が占めており,過去500年にわたり子池は淡水湖沼であったことがわかる.子池では海生珪藻が数%程度常に産出する.子池はオーセン湾と隣接しているため,夏季の海面や湖面が結氷していないときに,ブリザード等の強風が吹いた場合,海水が高潮となり湖沼に入ることが予想され,17KI-GC1コアで見られる海生珪藻のピーク期間は,夏季に湖面が開いており,その間強風による高潮が起きたことを示している.17KI-GC1コアで海生珪藻が多産する時期は,淡水珪藻も多産するため,珪藻全体が増加する.海水流入が多い時期の方が,海水流入がない時期に対して淡水珪藻が増加する理由として,流入が多い時期は湖面が凍らずに空いている期間が長いことが理由の一つとして考えられる.東南極ロス海沿岸では,数十年間隔で温暖化し,その間かたば風が強くなっていることが報告されている.すなわち,スカルブスネス一帯も数十年から100年間隔で温暖・寒冷気候を繰り返し,湖面の結氷期間が変化していると考えられる. 子池周辺地域に生息する夏季の珪藻群集では,融氷後の期間の長さに応じて増加する傾向があることが判明した.また基質による群集の違いも明瞭で,泥質干潟で産出する珪藻群集は優占種がほぼ共通しているほか泥質干潟でのみ見られる珪藻種も明らかになった.一方で,砂礫海岸では場所ごとの差異が大きいことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南極沿岸湖沼の堆積物を用いた過去数百年の古環境の復元が行えた.この期間の珪藻群集の分析から,この地域湖沼の結氷期間が数十年から百年の周期で変動していることを明らかにすることができた.また,基礎研究となるこの地域に生息する珪藻群集の分布域に関しても知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究地域であるスカルブスネスにおいて子池とは別の湖沼で古環境復元を行うとともに,リュッツホルム湾とは離れた東南極の露岩域の湖沼の珪藻群集を分析し,スカルブスネス湖沼との対比を行う.また,XRF分析を行い,珪藻群集の結果と併せて考察を行う予定である.
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