公募研究
2019年度末に乗船した研究航海KH-19-6 Leg 4において,南大洋大西洋区の約40地点で採取した海水試料について,酸素同位体比・水素同位体比・塩分を測定し,それらの地理分布を明らかにした.さらに,同航海で採取した海水濾過試料の予察的な観察を行い(カナダバルサム等を用いてプレパラートに試料を封入),沿岸域の複数地点で黄金色藻シストが産出することを確認した.また,この航海では,南極半島沿岸域において堆積物コア試料(KH-19-6 Leg 4 PC 01)も採取しており,2020年度中の分析・検討により,本コア試料には過去数千年間の地質記録が高い時間解像度で保存されていることがわかった.当該コア試料についても,黄金色藻シストと珪藻化石を分析するための前処理が完了しており,予察分析で黄金色藻シスト化石の産出も確認した.
2: おおむね順調に進展している
2020年度はコロナ禍による制約があったものの,研究航海KH-19-6 Leg 4で採取した海水試料を対象とした酸素同位体比・水素同位体比・塩分の測定が完了するとともに,同航海で採取した海水濾過試料からの黄金色藻シスト産出の確認,南極半島沿岸域で得た堆積物コア試料(KH-19-6 Leg 4 PC 01)の前処理が完了している.したがって,2021年度はこれらの試料の分析・議論に専念できる状況であり,現在までの進捗状況は「(2)おおむね順調に進展している」と判断できる.
KH-19-6-L4航海で採取した海水濾過試料について定量的な分析を行い,南大洋大西洋区の現生珪藻群集組成と黄金色藻シスト存在量とその地理分布を網羅的に解明する予定である.この分析結果を,上記の同位体比分析結果やその他の基礎データと比較することで,黄金色藻シストと各種環境パラメータとの関連性が明らかにする.なお,現生の黄金色藻シストの産出を南大洋から確認した例はMitchell & Silver (1982, 1986) に限られているため,この分析によって新規性が非常に高い知見が得られると期待される.また,KH-19-6-L4 PC01や研究航海IODP Exp. 382で得たSite U1538試料についても定量的な分析(珪藻化石群集と黄金色藻シスト化石の産出量変動)を行い,黄金色藻シスト化石の分析結果と各種のプロキシ記録や既知の気候変動イベントと比較する.これにより,黄金色藻シスト化石が持つ古環境指標としての有用性を検証する.
すべて 2020
すべて 学会発表 (2件)