研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04976
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研究機関 | 苫小牧工業高等専門学校 |
研究代表者 |
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (50396321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海氷 / リモートセンシング / 熱塩フラックス |
研究実績の概要 |
本研究では全南極海を対象にして、海氷過程の定量的なデータセットを作成する。これは海氷が、どこで、どれだけ、どのような種類で結氷し、どのような経路で移流し、そしてどこで、どれだけ融解するかを示すデータセットである。これを、主に衛星観測データを用いて南極海全域で作成する。昨年度結氷量に関しては、最新の気象データセットであるERA5を用いた薄氷厚推定アルゴリズムの再構築を行った。これはマイクロ波放射計(AMSR-E, AMSR2)による衛星観測データから沿岸ポリニヤ(薄氷厚)を検出し、そこでの氷厚を推定するものである。これにより高分解能(約6 km)の2002年から最新(2020年)のものまでの薄氷厚ならびに海氷生産量データを作成することができた(従来のものは気象データにERA-Interimを用いていたので、2019年8月までしかデータを作成できなかった)。このような20年近い分解能の良い沿岸ポリニヤのデータはこれまで存在していない。移流量・融解量に関しては、人工衛星に搭載されるマイクロ波放射計観測による海氷密接度や海氷の漂流速度、そしてこれらを用いた熱収支計算から見積もりを行った。これらの見積もりを行う上で、海氷の厚さは重要な情報である。本年度は以前にオホーツク海で行ったものと同様に、結氷量と融解量がバランスする一定の氷厚を仮定して見積もりを行った。見積もられた結氷量,移流量,融解量を組み合わせることにより、本研究で目指す海氷過程の定量的なデータセットの予備的な作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
成果報告において遅れが生じている。昨年度、研究代表者は所属研究機関の副校長であったため、学校としての新型コロナ対応に年度を通して忙殺されてしまい、想定していたものより大幅に研究に割ける時間を奪われてしまった。上記の通り、なんとか最低限のデータ解析を行うことができたが、成果発表に結びつけることはできなかった。今年度に関しては副校長の校務からは外れるので、昨年度と比べ大幅に増加した研究時間を確保できると予想している。これにより進捗状況の遅れも取り戻せると考えているし、取り戻す覚悟で研究課題を推進していく。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究成果をより洗練したものにし、その結果をもとに研究成果発表を行っていく。昨年度薄氷厚推定アルゴリズムの再構築を行ったことにより、現時点で2020年末までの最新の沿岸ポリニヤ(薄氷)域とそこでの海氷生産量のデータを作成できるようになった。これにより、2002年から20年近い分解能の良いデータによる時系列を調べることが可能になった。そこでこのデータを用いて、南極海における全沿岸ポリニヤの20年に近い変動を調べていく。これまで生産量が大きいポリニヤの変動は調べられてきているが、マイクロ波放射計による衛星観測で捉えられる範囲のすべての沿岸ポリニヤに注目して解析を行った研究はまだ存在していない。 昨年度予備的に作成を行った海氷過程の定量的なデータセットに関しては、より良いものになるように改善を行っていく。昨年度は、海氷の厚さをいつでもどこでも一様な厚さを仮定して見積もりを行った。今年度は、ICESat,ICESat-2,CryoSat-2といった衛星高度計による厚い海氷厚も用いて解析を行う。従来厚い氷厚を衛星から観測を行うことは難しかったが、これらの高度計観測に基づいたデータを用いることにより海氷量を推測することが可能になる。この氷厚や海氷量を見積もられる結氷量,移流量,融解量に結びつけ、海氷過程の定量的なデータセットを完成させる。現場観測データとの比較から、海氷による熱と塩,物質の再分配ならびに輸送と、これらに伴い引き起こされる生物生産の過程を明らかにすることを目指す。
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