海氷過程の定量的なデータセットの作成を、衛星データと熱フラックス計算に基づいて行った。これは大気―海氷間の熱フラックスと、海氷の結氷,移流,融解量を明らかにするものである。沿岸ポリニヤは、海氷と高密度水の形成に関して重要である。これまでの研究で、マイクロ波放射計による衛星データからポリニヤを検出し、その氷厚を推定するアルゴリズムの開発が行われてきた。アルゴリズムは、熱フラックス計算による氷厚との比較に基づいているので、気象データに依存する。さらに海氷生産量はこの氷厚を用いた熱フラックス計算から見積もられるので、気象データにより強く依存する。従来はERA-Interimを用いていた。しかしERA5に更新され、最近のデータは提供されなくなった。そこでERA5を用いてアルゴリズムの再開発を行い、生産量を見積り直した。110箇所のポリニヤにおける20年間の生産量の変動から、多くのポリニヤで減少トレンドが示された。融解量は、海氷の移流に伴う変化分を考慮して、海氷密接度の変化から見積もった。海氷厚は、結氷量とバランスするどこでも一定の約0.4mと仮定した。この厚さは、熱力学的な海氷の成長量に矛盾しない。年間積算の結氷量と融解量の気候値から、大陸側で結氷が、氷縁側で融解が卓越することが示された。年平均熱フラックスの気候値は、大陸側で海洋が大気に熱を奪われ、沖側で海洋が大気から熱を奪うことが示された。これらの大陸側と沖側のコントラストは、海氷による負の熱と淡水の輸送を示唆するものである。以上の成果を学会等で発表するとともに、学術誌への投稿準備を行っている。また、2023年3月に米国カリフォルニア州にて開催予定の2023 Gordon Research Conference on Polar Marine Scienceに講演者として招待されており、これらの研究成果を発表予定である。
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