研究実績の概要 |
南極氷床では、1990年代から雪氷質量損失が急激に進行しており、世界の海水準変動に重要な影響を与えていると考えられているが、その定性的・定量的実態には不明な点が多い。本研究課題では、申請者がこれまで開発してきた極域向け領域気候モデルNHM-SMAPを用いて、現在気候下(1978年~現在)の南極氷床表面における雪氷質量変動をシミュレートする。その結果を現地観測データを用いて検証した上で、近年の雪氷変動解析を実施する。本研究課題最終年度には、NHM-SMAPを用いた1978年から現在にかけての気候計算を完了させた。計算結果の解析の結果、この間の平均表面質量収支は1963 Gt/yearで、有意な変化はないと推定された。ただし、表面融解面積は統計的に有意に増加していることが示された。これらの成果の一部は、The World Climate Research Programme (WCRP) によって主導されているThe Coordinated Regional Downscaling Experiment (CORDEX) の極域版であるPolar CORDEXの南極版実施チームによる国際共同研究推進に貢献した。なお、NHM-SMAPをベースにして開発された日本域領域大気―積雪モデルLFM-SMAP(Niwano et al., 2022)が2022年10月に気象庁において現業化され、我が国の雪に起因する災害を予測するために活用されることとなった。予測情報は、気象庁HPの「今後の雪」コーナー(https://www.jma.go.jp/bosai/snow/)や専用アプリなどで閲覧可能である。この成果(社会実装)は、当初計画していなかったことであり、想定以上の成果と言える。今後は、この課題で確立した南極版NHM-SMAPを用いた南極研究をより多角的に展開していくことが期待出来る。
|