研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04983
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
田村 亨 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (10392630)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南極 / 氷床 / 海面変動 / 海岸地形 / ルミネッセンス年代測定 |
研究実績の概要 |
令和二年度は,南極の堆積物に最適な光ルミネッセンス(OSL)年代測定法の開発を行った.令和元年度の南極観測隊により西オングルの2地点,ラングホブデの2地点におけるトレンチから採取された試料の検討を行った.予察OSL測定の結果,西オングルでは2地点とも更新世以前の堆積物と考えられる一方,ラングホブデのトレンチは完新世の上部層と更新世の下部層に分けられることが明らかになった.そこで西オングルでは1試料,ランブホブデでは上部層と下部層を代表させるそれぞれ1試料について,OSL信号の検討を行った. 試料からは石英の砂粒子とシルト粒子,長石の砂粒子とシルト粒子を抽出してテスト測定を行った.SAR法を基軸に異なる測定条件において,OSL信号の太陽光への露光されやすさ,OSLの飽和度,測定手法の再現性,OSL信号成分の構成を調べた. テストの結果はまず,石英の信号は,砂粒子シルト粒子ともにファスト成分と呼ばれる安定な成分が非常に小さく,全体としての信号感度も低いことが明らかになった.このため今回の試料では,石英のOSL信号を年代決定に用いることができない. 次に,長石の砂粒子とポリミネラル試料のシルト粒子については,IRSL信号やpost-IR IRSL信号と呼ばれる長石から発せられるOSL信号の信号を行った.両信号ともに様々な測定温度やプレヒート温度による測定結果を検討した.結果として,最適な測定条件は堆積物の年代と砂粒子とシルト粒子で異なること,また長石の信号が今回の試料の年代測定に使えることが明らかになった. また,長石試料の予察測定の結果,少なくとも今回のトレンチの地点においては,放射性炭素年代に基づく3万から4万年前の海岸堆積物のユニットは認められず,完新世と最終間氷期かそれ以前の堆積物のみが認められることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では,当初は新たに試料の採取とその分析も予定していたが,今年度の南極観測隊の中止によりできなかった.しかし,令和元年度に採取された試料の検討を行って対象地域の試料に最適な測定プロトコルを確立でき,また予察測定により,宗谷海岸の最終間氷期以降の海面変動に関する重要な新知見を得られる見込みであることが明らかになった.このことからおおむね研究は順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
一年目である令和二年度において年代測定の対象とする鉱物を長石と特定し,さらにその最適な実験条件を明らかにした.二年目の令和三年度では,この実験条件により,西オングルとラングホブデの両地域の試料を測定して蓄積線量を求め,さらには放射能測定などから年間線量も定量して,年代測定を行っていく.長石の信号では通常の蓄積線量の定量以外に,フェーディング率の定量とその補正や,完新世試料における放射性炭素年代との比較などを通した余剰線量の評価を行い,最終的な年代値を決定していく.そうして得られた海岸堆積物の年代値と堆積物の標高とを組み合わせて海面変動の制約を行い,成果を国際学術誌に投稿することが目標である.また,これらの研究成果を踏まえて,南極海面変動の徹底解明のために今後の研究展開を共同研究者と検討していく.
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