南極前線南側の測点ECR-1において採取した沈降粒子の>1 mm分画を顕微鏡下でソーティングし、分類群ごとに有機炭素・窒素量および窒素同位体比を測定した。その結果、>1 mm分画の沈降粒子は、殻長が5 mmにも達する巨大な珪藻であるThalassiothrix antarcticaとその凝集体、珪質殻動物プランクトンであるフェオダリア、その他の動物プランクトンの遺骸、そしてそれらの表面に付着していた粒子で構成されていることが分かった。>1 mm分画は、ほとんどの季節で全沈降粒子中の有機炭素の10%以上を占め、季節によって>1 mm分画に占める各分類群の寄与率が変動した。>1 mm分画の窒素同位体比は全体的に<1 mm分画より高い値を示し、各分類群の栄養段階の違いなどを反映していると考えられた。これらの結果に詳細な解析を加えることで、南大洋インド洋区におけるフェオダリアを含む各分類群の生物ポンプへの寄与を評価し、生態系全体の動態解明に資する知見が得られるだろう。 また、南大洋のフェオダリア・放散虫のケイ素循環における位置づけを明らかにするため、産業技術総合研究所、オスロ大学(ノルウェー)との共同研究によりケイ質殻プランクトンのシリカ(SiO2)を迅速、正確に定量する新たな手法を開発した。この手法を用いて試験的に西部北極海の沈降粒子試料について分析を行ったところ、放散虫が西部北極海のケイ素循環に重要な役割を担っていることを初めて明らかにできた。この成果は、国際学術誌に発表するとともに、プレスリリースおよび国際シンポジウムでの発表も行った。
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