研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04985
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩崎 拓平 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (90569849)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南極海 / 窒素循環 / 硝化 |
研究実績の概要 |
本研究では海洋窒素循環の中心的な役割を持つ「硝化」に特に着目している。硝化は微生物によってアンモニアが硝酸塩へと変換されるプロセスの総称であり、海洋における無機窒素の相対量に影響を及ぼしている。本年度は南極海における硝化速度の分布を明らかにするため、過去に南極海で採取したサンプルの分析を実施した。観測点は東部南極海の南緯40度から69度までの定着氷域を含む10点であり、観測海域は大きく、外洋域と沿岸域の2つに分けられた。観測期間は2018年12月から2019年3月である。サンプルは0-200mまで光量層及び固定層から採取した。硝化速度は15Nトレーサー法で測定を行った。サンプルは15NでラベルしたNH4を試水に添加し、24時間培養した。培養後、ろ液を採取し、ろ液中の15NO3を測定することで硝化速度を見積もった。 硝化速度はすべての測点で表面で低く、深くなるにつれ高くなる傾向が見られ、極大値は1%光量層もしくは0.1%光量層付近に存在していた。硝化速度の極大値は観測点によって大きな違いが見られ、南極海外洋域のほうが沿岸域に比べて極大値が高くなる傾向が見られた。外洋域では最も高い値(31.7 nmol N/L/d)は南緯46度において検出された。一方沿岸域では最も高くても3.74 nmol N/L/d程度であった。また200mまでの水柱積算値でも外洋域(315-3435 umol/m2/d)のほうが沿岸域(52-674 umol/m2/d)に比べて有意に高くなった。今後はこの海域差の要因を環境パラメータとの関係から明らかにすると共に、硝化生物の空間的分布と他の微生物との関わりについて調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では南極海を対象とした観測航海に参加し、船上における実験で以下の2つのことを明らかにすることを計画していた。①表面光量の変動範囲において10 段階の光勾配に対し、硝化がどのように応答するか調査し、硝化が制限される光量を明らかにする。②硝化が制限された際の窒素栄養塩の組成変化が低次生態系にどのように影響を及ぼすかを評価するために栄養塩添加実験を実施する。しかし、コロナウイルス蔓延の影響によって、当初乗船を予定した航海が中止になった。さらにその予備として予定されていた航海も続いて同様の理由によって中止になった。そのため、これらの実験を実施できない状況に陥った。 一方、過去に採取したサンプルの分析は順調に進み、硝化速度の測定を行った全ての測点のサンプルを測定することができた。現在、同航海で採取したDNAサンプルの分析の準備を進めている。またこれと同時に南極の硝化と比較するため、インド洋及び北極海で得られた硝化サンプルの分析も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も航海の実施状況に見通しが立たない状況である。また実施されたとしても航海時期が年度末となる予定で、得られたサンプルを分析し、結果をまとめるのに時間が十分に取れない可能性が高い。そのため、本研究では過去に得られたサンプルを分析することで、南極海の硝化の特徴を明らかにすることを新たな目的とする。近年、研究代表者は微生物群集組成の情報からネットワーク構造を調べ、硝化生物がどの微生物と関わっているかを明らかにする手法を共同研究者と共に開発した。本手法はすでにあるDNAサンプルを用いて、16SrRNA遺伝子をターゲットにアンプリコンシーケンスを実施し、出てきた微生物群集組成データセットにネットワーク解析を行うことで可能となる。ここではこれまでに得られたサンプルを用いて、南極海の硝化生物がどのような微生物と関わっているかを明らかにする。また他の海域の微生物ネットワークと比較し、南極海の硝化生物のネットワークの固有性もしくは他の海域との共通性を明らかにすることを目指す。
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