研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04997
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キイロショウジョウバエ / アデニル酸シクラーゼ / 歌識別学習 |
研究実績の概要 |
本研究では、多くの動物が示す歌識別学習のメカニズムを理解するため、キイロショウジョウバエをモデルとした解析を進めた。キイロショウジョウバエの歌識別学習とは、幼少期(羽化直後の若い成虫)に「種に固有な求愛歌」を聞いた経験を持つことにより、成熟後の歌識別の精度が劇的に向上する、という現象である。この歌識別学習を成立させる分子機構に迫るため、哺乳類から昆虫までで広く保存されている記憶分子であるカルシウム依存性アデニル酸シクラーゼ(AC)に着目し、ニューロンの種類ごとにその発現を抑制することを試みた。 ショウジョウバエの脳において、ニューロンはアセチルコリン作動性、グルタミン酸作動性、GABA作動性の3種類の集団に、概ね分類できる。そこでショウジョウバエにおける個々の神経細胞の遺伝子発現パターンを解析可能な単一細胞RNAseqデータベースを用いて、これら3種類のニューロンにおけるAC遺伝子の発現を解析した。その結果、これら全ての集団において、多くのニューロンがAC遺伝子を発現することが判明した。そこで次に、どのニューロン集団におけるAC遺伝子の発現が歌識別学習を担うのかを追求した。まずは、ニューロン数が比較的少ないグルタミン酸作動性とGABA作動性ニューロンでそれぞれ、RNAi法によりAC遺伝子の発現を抑制した個体を作成した。これらの個体を実験群として用いて、歌識別学習が対照群と同様に成立するかを行動実験で比較した。現在はまだ実験試行回数が少なく結論は出せないが、発現抑制により歌識別学習が変化する傾向が見られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キイロショウジョウバエが示す歌識別学習のメカニズムとして、カルシウム依存性アデニル酸シクラーゼ(AC)に着目した研究を進めている。当該年度中、まずは異なる神経伝達物質を放出する3種類のニューロン集団において、AC遺伝子の発現を確認できた。さらに、このうち2種類のニューロン集団でAC遺伝子の発現を抑制した個体群の歌識別学習行動を計測する実験系を確立した。前述のように、現在はまだ実験試行回数が少なく結論は出せないが、発現抑制により歌識別学習が変化する傾向が見られている。以上の進捗状況から、本研究課題は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
グルタミン酸作動性とGABA作動性ニューロンでそれぞれ、RNAi法によりAC遺伝子の発現を抑制した個体を用いた行動解析を続ける。また、アセチルコリン作動性ニューロンについても、AC遺伝子の発現を抑制した個体群を新たに作成し、上記個体群と同様に、歌識別学習に変化が見られるかを解析する。
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