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2020 年度 実績報告書

古代人の顎形状を用いた歯茎摩擦音/s/発音の下位機能発現時期の推定

公募研究

研究領域共創的コミュニケーションのための言語進化学
研究課題/領域番号 20H04999
研究機関豊橋技術科学大学

研究代表者

吉永 司  豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50824190)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード進化言語学 / 摩擦音 / チンパンジー / 下位機能 / 数値流体解析
研究実績の概要

本年度は,ヒトの摩擦音/s/の発音能力獲得における下位機能の発現時期推定のため,チンパンジー,古代人,現代人を対象に,下顎形状をランドマーク法により解析し,ランドマーク点のモーフィングから/s/発音の口腔形状の推定を行った.この時,下顎の前面,背面,底面にランドマーク点を手動で打ち,その周りをセミランドマーク点を用いて自動的に埋めることで,下顎の表面形状の特徴点を決定した.この時,チンパンジーの下顎骨は京都大学霊長類研究所のデータベースを用い,古代人の顎形状はウイーン大学のデジタルアーカイブにある約250万年前のアウストラロピテクスの顎骨を用いた.ランドマークの特徴点より主成分分析を行うと,第1主成分でチンパンジー,古代人,現代人の下顎形状を分類することができた.また,ランドマーク点より薄板スプライン法を用いて,現代人の/s/構音時の口腔形状を古代人及びチンパンジーの下顎に合うようモーフィングした.そして,その口腔形状に対して,一定流量の呼気流を流入するシミュレーションを行うことにより,どのような音が発生するのかを調べた.結果として,古代人やチンパンジーの形状では,現代人の/s/の周波数に比べるとやや低い周波数となったが,摩擦音/s/のような音が発生し,古代人やチンパンジーの下顎形状でも,口腔形状が形成されれば発音可能であることがわかった.今後は,舌の筋線維構造から,なぜチンパンジーが/s/を発音できないのかや,古代人から現代人に進化していく過程で下顎の形状の変化から,どのように発音能力が変化していったのかを調べていく.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は,ランドマーク法を用いることで,目標としていた古代人の摩擦音/s/発音の口腔形状推定を達成できた.また,推定した口腔形状に対して,空力音響シミュレーションを行うことにより,どのように口腔内に気流が流れ,音が発生するのかを明らかにすることができた.ランドマーク法では,下顎の表面形状の特徴点を正確に捉えるため,解剖学的なランドマーク点を手動で選ぶとともに,そのランドマーク点群の間の面をセミランドマーク法により自動抽出した.また,現代人7名,チンパンジー7体の下顎に対して抽出したランドマーク点群の主成分分析を行うと,第1主成分で80%の形状の違いが説明でき,現代人とチンパンジーを分類することができた.また,その第1主成分は主に顎の前後方向の長さに現れることがわかった.さらに,古代人に対して同様の解析を行うと,第1主成分の値は現代人とチンパンジーの間に現れ,250万年前のアウストラロピテクスの下顎形状は現代人とチンパンジーの中間に位置していることが確認できた.また,薄板スプライン法により現代人の/s/発音時の口腔形状を,チンパンジーや古代人の下顎形状に合うようにモーフィングし,発音シミュレーションを行った.この時,シミュレーションでは圧縮性流体の乱流解析を行うことにより,口腔内で発生するジェット流と音の発生を同時に予測した.その結果,チンパンジーや古代人の顎形状でも,舌を上手く形成することが可能であれば,摩擦音/s/の発音が可能であることがわかった.

今後の研究の推進方策

今後は,摩擦音/s/の発音能力獲得における下位機能の発現時期推定のため,舌筋線維構造の進化における変化に着目し解析を進めていく.これまでの解析の結果では,チンパンジーでも舌が上手く形成出来れば,/s/のような音を発音可能であるとわかったのに対し,実際のチンパンジーで/s/のような発音が行われているという観察結果は報告されていない.なので,ヒトとチンパンジーとの舌筋線維構造の違いに着目して,なぜチンパンジーが発音できないのかという点を明らかにしていくとともに,進化における顎形状の変化が発音能力にどのように影響を与えたのかを明らかにしていく.特に,ヒトに比べてチンパンジーの舌は解剖学的に扁平であることは分かっているが,その扁平な筋線維構造が舌の形状変化にどのように影響を与えるのかを明らかにする.そのため,舌の筋線維構造を考慮した有限要素モデルを構築して,筋線維構造の違いが変形能力に与える影響を調べる.さらに,筋線維走行の違いによる舌形状の違いが子音の発音や音響特性に与える影響を調べていく.この時,舌の構音運動を再現する口腔モデルを構築し,舌形状の違いや運動速度をモデル内で変化させ,音に対する影響をパラメトリックに調べていく.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)

  • [雑誌論文] Aeroacoustic differences between the Japanese fricatives [s] and [h]2021

    • 著者名/発表者名
      Yoshinaga Tsukasa、Maekawa Kikuo、Iida Akiyoshi
    • 雑誌名

      The Journal of the Acoustical Society of America

      巻: 149 ページ: 2426~2436

    • DOI

      10.1121/10.0003936

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Hysteresis of aeroacoustic sound generation in the articulation of [s]2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshinaga Tsukasa、Nozaki Kazunori、Iida Akiyoshi
    • 雑誌名

      Physics of Fluids

      巻: 32 ページ: 105114~105114

    • DOI

      10.1063/5.0020312

    • 査読あり
  • [学会発表] Aeroacoustic simulation on sibilant fricative production using a volume penalization method2021

    • 著者名/発表者名
      Yoshinaga T., Nozaki K., Yokoyama, H. and Iida A.
    • 学会等名
      14th World Congress in Computational Mechanics (WCCM) and ECCOMAS Congress 2020
    • 国際学会
  • [学会発表] Aeroacoustic simulation on a simplified vocal tract model with tongue movement for the articulation of [s]2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshinaga T., Nozaki K., Yokoyama, H. and Iida A.
    • 学会等名
      12th International Conference on Voice Physiology and Biomechanics (ICVPB2020)
    • 国際学会

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公開日: 2021-12-27  

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