数学は自然や社会を科学的に記述するための言語として、人間に固有の高度に象徴化された概念体系であるが、赤ん坊や、他の動物であるラット、マカク、カラスなどの種においても、瞬時に視覚的なアイテムの数を評価する能力や、簡単な足し算や引き算を行う能力などの初等的な数学的認知能力が備わっていることが指摘されている。このような問題に対して、いくつかのグループでは、一般的な視覚物体認識のために訓練された畳み込みニューラルネットワークによって、特定の数に反応するニューラルユニットが自発的に現れることを発見するなど、深層ニューラルネットワークを用いた計算的アプローチに基づいた興味深い研究を行っている。これらの結果は、現実の世界のオブジェクトやシーンを認識するために進化した視覚システムの中に数知覚能力が埋め込まれた可能性があることを示唆している。 しかし、視覚的なアイテムの数量評価は数の概念の一側面に過ぎない。数量に加えて、数の概念は長さ、面積、体積などの大きさ、順序、オブジェクトの位置など多面的な意味を統合することによって形成される。そこで、複数のモダリティの情報を統合したニューラルネットワークモデルを提案することで数の感覚が出現するかについて計算論的なアプローチで研究を行なった。具体的には、正準相関分析を深層化したdeep CCAに基づいて、異なる経験(実験ではMNISTの数字画像と長方形のような視覚アイテムが複数配置された画像)から「数」に共通する情報を抽出する多層ニューラルネットワークモデルを構築し、どのような条件で離散性と数の順序性が保たれた神経活動状態が現れるか探究した。この結果については日本神経科学会や日本物理学会の年会において発表を行なった。 また、生理学研究所と共同して数知覚に関する認知課題実験と脳波計測を行なった。現在、数名の被験者に対する計測を行いそのデータを解析している。
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