研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
20H05019
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
奥田 次郎 京都産業大学, 情報理工学部, 教授 (80384725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 記号列構造 / 環境構造 / 構成論実験 / 遠隔コミュニケーション / 意図理解 / コミュニケーション意欲 |
研究実績の概要 |
本研究では、人間が環境や他者との相互作用を通して新規な記号言語体系を共創的に進化させる過程を検討するため、複数の実験参加者どうしが多数の記号要素を並べた記号列を通信媒体として、協力・競合しながら課題環境を探索・改変してゆく実験課題を開発する。特に、(i)要素的な記号の集合の構造に新たな意味を埋め込み、この意味構造を階層的に用いて長い記号列の中に豊富で柔軟な意味を発現させる過程、(ii)外界の環境や文脈に依存して記号の集合構造を切り替えて表す、環境適合的な記号構造利用の創出過程、(iii)他者の行動や環境の変化に合わせて自己の記号構造を適応的に変化させると同時に、自己の記号構造に適した形態に環境を改変し他者の記号構造の修正を促す過程、の3点に着目する。 初年度は、上記のための実験課題の基本設計と課題プログラム実装から開始し、2名の実験参加者が課題空間内を自由に移動しながら、任意の場所に任意のタイミングで任意の記号列メッセージを作成、参照できる実験システムを構築した。この実験システムを用いた予備実験を行い、実験課題中に参加者が作成する記号列メッセージの記号長や構造、付与する意味内容、作成場所、参照タイミング、記号列修正行動などの特徴に関する基礎的なデータを得た。特に、上記(i)(ii)と関連して、課題画面内の空間的な情報(ある対象物に対する上下左右の位置など)を記号列の構造(対象物を意味する記号列の前後に位置を表す記号列を配置するなど)に埋め込んで表現する、環境空間依存的な記号列構造の知見を得た。 また、遠隔環境下でのコミュニケーションの特徴の検討として、多人数が同時に同一の仮想会議室内で会合して発表や議論を行える実験システムを試作し、このような多人数3次元オンライン仮想環境が、他者の意図の理解やコミュニケーション意欲の観点で利点がある可能性を示す知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
基本的な実験課題設計や課題プログラムのプロトタイプまである程度完成させることができたが、様々な条件での予備実験の試行がまだ十分とは言えず、詳細な課題パラメータの策定が遅れている。これらを含めた実験課題パラダイムを早急に確定させ、本格的な実験へと進める必要がある。 一方で、昨今の状況に鑑み、多人数の遠隔3次元仮想現実コミュニケーションツールの試作と特徴検討という、当初予定に無かったオンデマンドの研究にも取り組むこととなり、所定の知見を得ることができた。領域全体の目標の1つである、コミュニケーションの未来像への提言に関する模索の一端として、意義があるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究では、実験課題中の参加者の記号列作成や相手とのコミュニケーション行動などの特徴に関する基礎的なデータを得た。しかしながら、記号列構造における階層的な意味発現や、環境依存的な記号列構造の切り替えなどの積極的な証拠を得るには至っていない。そこで2021年度は、実験環境内で参加者に取り組ませる課題文脈をより複雑で状況依存的なものに発展させ、課題構造と環境構造とが記号列構造に反映されるための条件を探索する。また、実験参加者による課題環境改変の要素についてはまだ実験システム内に実装できていないため、並行して課題プログラム設計を進める。自身や他者が開発した記号列構造に適合しない環境構造を人為的に創出させ、記号列構造と環境構造のどちらをどのように修正する行動が見られるか検討する。これらの構成論的実験を通して、外界環境と言語記号列構造との間の相互作用が生じる条件や過程を明らかにすることを目指す。
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