研究領域 | 共創的コミュニケーションのための言語進化学 |
研究課題/領域番号 |
20H05020
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
櫻井 芳雄 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (60153962)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 概念形成 / メタ認知 / 神経回路 / 神経細胞集団 / ラット |
研究実績の概要 |
先の公募研究で確立した行動課題を活用しラットの訓練を進めた。概念形成については、音刺激ペアの同異を判断させる同異概念課題の訓練が困難であったため、左右の視覚刺激を用いた新たな課題を考案した。メタ認知については、先の公募研究で確立した視覚刺激の検出課題(知覚モニタリング課題)をさらに改良し、ラットがメタ認知を働かせ行動できることを再度確認した。次にその課題の訓練が終了したラットの視覚皮質と頭頂皮質に特殊電極(テトロード)を複数本手術により刺入し、回復後、課題遂行中の神経細胞集団の活動を両部位から同時記録した。深層学習(ディープラーニング)を活用した主成分解析などにより神経細胞集団の活動を解析し、その動態を調べたところ、「見えた」「見えなかった」というメタ認知と対応した変化が、視覚皮質と頭頂皮質の両部位において見られた。また、視覚刺激に反応する感覚性の神経細胞だけでなく、反応しない非感覚性の神経細胞も、メタ認知に対応した神経細胞集団の活動に寄与していることがわかった。 また、次年度に予定していた光遺伝学による実験も開始した。チャネルロドプシン2(ChR2)を発現する遺伝子を、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)等を用いてラットの視覚皮質と頭頂皮質に投与し、CHR2が発現することを確認した。次にそのラットに知覚モニタリング課題を行わせ、光刺激用ファイバーを用いて視覚皮質と頭頂皮質を光刺激したところ、ラットの行動に変化が生じることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ラットの視覚的なメタ認知と対応した神経細胞集団の活動を視覚皮質と頭頂皮質の両部位から検出することに成功した。またそのような活動に、視覚刺激に反応しない非感覚性の神経細胞も寄与しているという新たな事実も発見した。これらの成果を論文にまとめ、評価の高い国際誌(Current Biology)に投稿し、改稿を経て受理された。 また、今年度に予定していた光遺伝学による実験も、予定よりも早く開始することができた。そして、チャネルロドプシン2(ChR2)を発現した視覚皮質と頭頂皮質を光刺激したところ、ラットの行動に変化が生じることまでわかった。
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今後の研究の推進方策 |
概念形成については、左右の視覚刺激を用いた新たな同異概念課題をラットに訓練し、実際に左右の同異概念が形成されるかどうか検討する。訓練に成功した場合、前頭前野と海馬にテトロードを埋め込み、同異概念課題遂行中の神経細胞集団の活動を記録し解析する。 メタ認知については、光遺伝学の実験をさらに進め、知覚モニタリング課題中のラットの視覚皮質と頭頂皮質を賦活あるいは抑制した際、課題の遂行にどのような変化が現れるのか体系的に調べる。またそのような賦活/抑制が、視覚刺激に反応する感覚性の神経細胞集団と反応しない非感覚性の神経細胞集団において異なる効果を示すかどうかについても調べる。これらの結果から、ラットの概念形成とメタ認知を担う神経メカニズムを明らかにする。
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