研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ヒトが言語と音楽を介してコミュニケーションを行う能力に関して、認知神経科学の視点からその脳神経基盤を明らかにすることである。その目的のため、令和2年度申請者は言語実験と音楽実験の解析を実施した。 言語に関して、6名の被験者に対し文章刺激を読み/聞き条件で与えた際の脳活動に加え、追加実験としてテキストと音声を同時に呈示した条件で脳活動を測定した。得られた脳活動データに対し、文章刺激から抽出した意味特徴量および音韻特徴量を組み合わせたBanded-Ridge回帰を実施した。さらにVariance Partitionining解析を実施することにより、複数種類の特徴量により予測精度への影響を分離することに成功した。結果として、刺激モダリティに不変的な意味回路と、注意選択的な意味回路が脳において重複することを明らかにした。その内容をまとめた論文をbioRxivにプレプリントとして公開し、さらに学術誌に投稿し、現在査読中である(Nakai et al., bioRxiv 2020)。 音楽に関して、5名の被験者に540曲の楽曲を聴かせた際の脳活動データを解析した。聴覚応答に関するModulation Transfer Functionモデルを実装し、上側頭回の音楽ジャンル特異的な脳活動パターンを説明することに成功した。また、Brain-Feature Similarity Analysisという解析手法を導入し、脳におけるカテゴリー選択的応答を音響特徴量のカテゴリー間類似度で説明することに成功した。この成果をBrain and Behavior誌において発表した(Nakai et al., Brain and Behavior 2020)。 本年度はさらに言語と音楽の解析に共通した脳機能デコーディング技術に関する知見をまとめ、脳神経外科誌に総説として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理由 申請者は言語を介したコミュニケーションの定量的モデル構築のため、当初予定していた意味特徴量、音韻特徴量に加え、低次視覚特徴量としてMotion Energyモデル(Nishimoto et al., Current Biology 2011)、さらに低次聴覚特徴量としてModulation Transfer Functionモデルを利用し、低次感覚情報の影響を除外する追加解析を実施した。本解析により、音韻特徴量における見かけ上のモダリティ不変性や注意選択性が低次感覚特徴量によってもたらされている可能性が示唆され、結果としてモダリティ不変性と注意選択性が意味特徴量特異的な性質であることがより強く支持されることとなった。この結果は計画当初は予想されなかったものである。 本年度はさらにDror Cohen博士と共同研究として、脳の機能的結合の新たな解析手法としてExternal Stimulus Connectivityの指標を提案し、その指標を利用した外発的刺激と内発的認知の脳活動における影響を定量的に分析した結果をbioRxiv誌に発表した(Dror, Nakai, Nishimoto, bioRxiv 2020)。また、小出直子博士との共同研究として、脳における感情情報表現の分布を可視化することに成功し、NeuroImage誌に発表した(Koide-Majima, Nakai, Nishimoto, NeuroImage 2020)。これらの結果は本研究計画で用いる解析手法を応用した共同研究である。 以上により、本年度は当初計画していた以上の成果を出すことができたと考えられる。
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