研究領域 | 細胞社会ダイバーシティーの統合的解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
20H05030
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
八杉 徹雄 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (90508110)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数理モデリング / ショウジョウバエ / 視覚中枢 |
研究実績の概要 |
組織の発生、恒常性維持において、未分化細胞の増殖と分化は様々なシグナル伝達経路の相互作用によって厳密に制御される。この細胞社会ダイバーシティーを制御するシグナル経路の働きの解明は、組織発生や恒常性維持機構の理解に必須なだけでなく、その破綻に起因するガンをはじめとする種々の疾患の治療への応用も期待できる。本研究では、未分化細胞の増殖と分化が時空間的に制御された中で進行するショウジョウバエ視覚中枢をモデルとし、未分化細胞の挙動の時空間パターンを記述する数理モデルの予測を生体内で実証することで、組織発生と腫瘍形成機構の包括的な理解を目指している。 これまでに、視覚中枢の発生と腫瘍形成を制御するHippoシグナルに着目して研究を進めてきた。Hippoシグナルは視覚中枢において未分化細胞な神経上皮細胞(NE)の増殖抑制と神経幹細胞(NB)への分化誘導を担う。先行研究において構築した数理モデルのシミュレーションから「Hippoシグナル不活性化によるNEの過剰増殖の結果細胞のサイズが縮小すると、NB分化遅延の表現型を示す」という予測がなされた。そこで、この予測を生体内で検証するために、Hippoシグナル不活性化が細胞増殖、細胞成長に及ぼす影響の定量的計測を行った。また、Hippoシグナルの下流で作用し、細胞成長を制御すると考えられるdMycの機能解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Hippoシグナル不活性化が神経上皮細胞の細胞増殖と細胞成長に与える影響を調べた。細胞成長についてはサンプルごとの結果のばらつきが大きいため、実験手技を再検討しており、今後さらに詳細な解析を行う予定である。 dMycは未分化な神経上皮細胞で発現し、視覚中枢のサイズを制御する。視覚中枢特異的なdMycの機能欠失は神経上皮細胞の増殖異常の表現型を示した。また、視覚中枢の一部においてdMycを過剰発現すると分化遅延の表現型を示した。また、視覚中枢の分化を阻害するJAK/STATシグナルがdMycの発現タイミングを制御することを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
Hippoシグナルが細胞成長に与える影響について、サンプル間のばらつきが少なくなるような実験手技、実験条件を整え解析を行う。同時にdMycの作用についてより詳細に調べる。dMycが細胞増殖、細胞成長に与える影響の定量的な解析を行うと共に、JAK/STATシグナルとdMycの相互作用について遺伝学的、分子生物学的解析を進める。 さらに、これらの結果を数理モデルに取り込み、シミュレーションによるパラメータと理論の正当性を検証する。ショウジョウバエの遺伝学的手法を駆使し、各シグナル経路や因子の活性を増強または減弱させ、シミュレーションで予測される時空間パターンが生体内で観察されるか、ライブイメージング法及び組織染色法を用いて検証する。
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