組織の発生、恒常性維持において、未分化細胞の増殖と分化は様々なシグナル伝達経路の相互作用によって厳密に制御される。この細胞社会ダイバーシティーを制御するシグナル経路の働きの解明は、組織発生や恒常性維持機構の理解に必須なだけでなく、その破綻に起因するガンをはじめとする種々の疾患の治療への応用も期待できる。本研究では、未分化細胞の増殖と分化が時空間的に制御された中で進行するショウジョウバエ視覚中枢をモデルとし、未分化細胞の挙動の時空間パターンを記述する数理モデルの予測を生体内で実証することで、組織発生と腫瘍形成機構の包括的な理解を目指した。 本年度は、未分化な神経上皮細胞で発現し、視覚中枢のサイズを制御するdMycに着目し、研究を継続した。視覚中枢特異的なdMyc遺伝子の機能阻害が細胞増殖、細胞成長に及ぼす影響の定量的計測を行った。また、Hippoシグナルの阻害がdMyc遺伝子の異所的な発現を誘導することを見出だした。同時に、視覚中枢の発生ダイナミクスを表す数理モデルを用いて、細胞増殖による領域成長を加味したシミュレーションを行った。 今後、神経上皮細胞の細胞増殖、細胞成長、神経幹細胞への分化の要素を取り入れたシミュレーションを行うことで、パラメータと理論の正当性を検証する。ショウジョウバエの遺伝学的手法を駆使し、各シグナル経路や因子の活性を増強または減弱させ、シミュレーションで予測される時空間パターンが生体内で観察されるか、ライブイメージング法及び組織染色法を用いて検証する。
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