公募研究
腫瘍血管から70-100μm程度離れた領域には、酸素分圧の低い低酸素領域が存在する。低酸素刺激を受けたがん細胞は、浸潤・転移能、及び抗がん剤や放射線に対する抵抗性を獲得することが報告されている。これまでの研究で我々は、低酸素環境下で活性が変化する遺伝子群をゲノムワイドスケールで探索し、①抗がん剤抵抗性を左右する候補遺伝子としてATAD2を、②腫瘍低酸素分画をモニターするための血中バイオマーカー、および低酸素がん細胞に起因する放射線抵抗性を抑制するための治療標的候補としてSPINK1を同定してきた。また、③低酸素刺激を受けたがん細胞の中で、DNA二重鎖切断の相同組換え(HR)修復活性が低下することによってゲノムが不安定化し、これが悪性かつ治療抵抗性のがん細胞クローンを生じる原因となっている可能性を見出してきた。本研究ではこれら独自の知見に基づいて、腫瘍組織内の酸素環境ダイバーシティーに着目した研究を展開し、がん悪性化機構に迫った。その結果、①低酸素刺激を引き金とするATAD2タンパク質の積極的な分解が、染色体のヘテロクロマチン化と、それに起因するS期の進行遅延を介して、がん細胞の化学療法抵抗性を誘発している可能性が明らかになった。また、②低酸素刺激に応答して発現・分泌されるSPINK1を、「腫瘍内低酸素分画を予測する血中バイオマーカー」として、また「低酸素がん細胞に起因するがんの放射線抵抗性を克服するための新規治療標的」として活用できる可能性を見出した。さらに、③そして最後に、HR修復タンパク質RPA2が低酸素環境下で過剰にリン酸化することによって、DNA DSB部位に対するRad51のリクルートが滞り、HR修復活性が低下する可能性を見出した。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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