脳梗塞後、1)生き残った梗塞部周辺(ペナンブラ)での神経回路の再編が生じ、失われた機能をペナンブラの神経細胞が肩代わりするようになることと、2)ペナンブラの外の無傷の領域での可塑性の亢進により、超可塑性が実現し、例えば、従来利き手でなかった左手で字がかけるようになるなど、日常生活を送るための機能補償がされることがある。どちらの場合も、脳の広範囲に可塑性の亢進が惹起されるが、この超可塑性の基礎メカニズムを明らかにすることで、効果的なリハビリへの応用が望める。梗塞初期には、酸素不足によるTCA回路の停止、および、乳酸の蓄積による代謝性アシドーシスが生じる。脳梗塞後、酸性化したバーグマングリア細胞からのグルタミン酸放出は、急性には、脳の破壊につながり、回復期においては、ペナンブラ、あるいは、遠く離れた部位にて、シナプス可塑性(LTD)が生じやすい状態(超可塑性もしくは易可塑性)を作ると考えられる。そこで、本研究では、Rose Bengal脳梗塞モデルを使い、慢性的な酸性化・乳酸供給が持続するかどうかを調べるため、自由行動下でのファイバーフォトメトリー法を開発・改良をした。また、小脳依存性の水平視機性眼球運動(HOKR)学習をひとつのモデルとして、グリア細胞をターゲットにした光操作による介入も試みた。研究の結果、脳梗塞による影響は時空的に複雑なダイナミズムを描くことが明らかになった。すなわち、梗塞部位から近位と遠位とで、異なるタイムコースで影響が波及することが示された。また、梗塞による障害と超可塑性は、時空間上で重なり合って発現するため、片方のみ効果を抽出することは困難であったが、グリア・オプトジェネティクスの実験等を重ねることで、今後、超可塑性の効果を引き出し、例えば、老齢マウスの記憶障害の治療を実現することも検討していきたい。
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