研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
20H05047
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
常松 友美 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (80726539)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ノンレム睡眠 / レム睡眠 / PGO波 / 海馬 / 光遺伝学 / 大規模細胞外記録 |
研究実績の概要 |
我々ほ乳類の睡眠ステージは、ノンレム睡眠とレム睡眠からなる。ノンレム睡眠とレム睡眠は、同じ睡眠状態であっても、神経活動がそれぞれ同期、脱同期し、全く異なる脳状態をとる。また、記憶の定着・消去では、異なる睡眠ステージで、相反する役割を担っていることが示唆されてきている。ノンレム睡眠とレム睡眠は、等しく外部からの感覚入力が遮断された状態である。しかしながら、なぜこのような全く様相の違う神経活動、生理的役割を持ちうるのか、そのメカニズムは全く分かっていない。我々は、それぞれの睡眠ステージにおいて、情報の流れの方向や大きさ、つまり脳内情報伝達動態が全く異なるのではないかと考えている。さらに、その動態の違いこそが、ノンレム睡眠とレム睡眠の生理的役割である記憶の定着・消去に違いを生み出しているのではないかと予想している。本研究では、睡眠中に脳幹で発生するPonto-geniculo-occipital(PGO)波に着目し、ノンレム睡眠、およびレム睡眠における脳内情報伝達の方向や大きさの差異をマウスを用いて明らかにする。また、これまでの研究からPGO波の発生頻度と恐怖条件消去学習の成立に正の相関があることが示されており、PGO波は記憶学習において重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、光遺伝学的手法を用いて、PGO波の発生頻度をノンレム睡眠、あるいはレム睡眠特異的に制御することで脳波や神経活動を制御した結果、記憶定着・消去にどのような影響を及ぼすか検討する。本研究により、睡眠ステージに応じた脳内情報伝達と記憶の相関関係を明らかにする。本研究は、ノンレム睡眠とレム睡眠の生理的機能の違いを生み出すメカニズムを追求し、2つの睡眠ステージの存在意義に迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ノンレム睡眠、およびレム睡眠中の脳内情報伝達動態を明らかにするために、マウスを用いてPGO波と皮質脳波を記録し、解析を行った。PGO波は脳幹にバイポーラ電極を留置して記録し、皮質脳波はネジ電極を頭蓋骨に留置して記録した。PGO波発生時の皮質脳波の周波数成分を解析したところ、レム睡眠時には主にシータ波の成分が強く表れたが、ノンレム睡眠時にはデルタ波、シータ波、アルファ波などより広範囲の周波数成分が強く表れていることを明らかにした。つまりPGO波発生に伴う皮質脳波は、レム睡眠・ノンレム睡眠で全く異なることを示している。次に、PGO波と海馬神経活動、および海馬で発生するリップル波を記録し、解析を行った。海馬神経活動、およびリップル波は海馬に32チャンネルの記録電極を搭載したシリコンプローブを刺入して記録した。詳細な解析を行ったところ、ノンレム睡眠時には海馬神経活動や海馬リップル波が起こった後にPGO波が観察されるが、一方レム睡眠時にはPGO波が発生した後に海馬神経活動が高まることが明らかになった。すなわち、異なる睡眠ステージでは、脳幹と海馬の脳領域間での情報伝達方向が逆転していることを意味している。本研究成果は、研究代表者が筆頭著者としてeLife誌に発表した。 次に光遺伝学的手法によりPGO波を人為的に制御するため、2020年度にChAT-Creマウス、および恐怖条件付け試験一式を導入し、現在準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、光遺伝学を用いて、PGO波の発生頻度を人為的に制御する実験を行う。本研究のねらいは、PGO波の発生頻度を制御することで、脳波や神経活動を操作することにある。さらに、この脳全体の神経活動の変化が、記憶の定着・消去に与える影響を検討する。 PGO波の発生頻度を制御するために、橋脚被蓋核および背外側被蓋核のコリン作動性神経特異的にその活動を活性化および抑制する。PGO波発生を惹起するためには、チャネルロドプシン2(ChR2)を介して、コリン作動性神経を光によって活性化する。一方、PGO波発生の抑制には、ハロロドプシン(NpHR)あるいはアーキオロドプシン(ArchT)を介して、コリン作動性神経を光によって抑制する。PGO波を測定し、かつ、光操作をするため、オプトロード(記録電極・光ファイバー接合プローブ)を橋に刺入し、橋脚被蓋核および背外側被蓋核に光照射を行う。 記憶の定着・消去への影響を検討するために、本研究では、海馬依存性恐怖条件付け学習課題を行う。恐怖条件付け後、マウスをホームケージに戻し、自由行動下で睡眠覚醒を繰り返させる。このとき、脳波と筋電位をもとに、睡眠覚醒ステージを判定し、レム睡眠特異的、あるいはノンレム睡眠特異的に光照射を行い、PGO波を介した脳波、神経活動の挙動を摂動する。その後、テスト試行を行い、フリージング行動を指標に、恐怖記憶の定着・消去を評価する。本研究では、PGO波発生頻度と記憶定着度の相関関係を明らかにする。本研究により、異なる睡眠ステージにおける脳情報動態と記憶の相関関係を明らかにする。
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