研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
20H05048
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
能瀬 聡直 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30260037)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ショウジョウバエ / コネクトミクス / マルチモーダル感覚統合 / 脳情報動態 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
幼虫は頭部に侵害刺激を受けると後退運動により逃避する。この逃避行動は、2つのモダリティ、視覚(頭部への青色光の照射)および触覚(頭部への機械的刺激)によって誘起される。申請者らは以前の研究において視覚刺激、触覚刺激が後退運動を誘起する過程を制御するコマンドニューロンとして、a-WaveとBi-clusterをそれぞれ同定していた。さらに前回の公募研究において大規模なコネクトミクス解析により両者の下流回路を探り、この統合が起こる細胞の候補BLT (Bilateral thoracic)ニューロンを同定した。BLTはa-WaveとBi-clusterの両方から直接、間接に入力を受け、後退運動の実行回路を構成するA18bニューロン、後退と相反的な運動である前進運動を阻害するPair1ニューロンに直接出力することから、触覚、視覚情報を統合し後退運動を指令する役割をもつことが強く示唆された。本年度計画ではBLT回路の機能、活動様式を解析することを可能とするため、BLTを標的するGal4系統の探索を行い候補となる系統をいくつか同定した。一方、BLT細胞とは独立に触覚や視覚の刺激を受けて後退運動を誘導するようなニューロンを光遺伝学を用いて機能的に探索した。その結果、頭部への触覚刺激や青色光による刺激を後退ぜん動運動のトリガーへとつなげる後退トリガーニューロンの候補τ(暫定名)を同定した。τニューロンを含む少数のGal4標的ニューロンの活動抑制を行うと、機械刺激・青色光による後退ぜん動運動が減少した。したがって、τニューロンは後退運動の誘発に必要かつ十分なトリガーニューロンであることが示唆された。また頭部への触覚刺激を中枢に伝える胸部T3神経節の神経束に電流を流し刺激すると、τニューロンが活性化されることが、カルシウムイメージングによって観察された。このことから、τニューロンが後退ぜん動運動を起こすような感覚刺激に応じて活動することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標通りBLTを標的するGal4系統の候補を同定した。また新たな後退トリガーニューロンの候補を同定した。
|
今後の研究の推進方策 |
BLTを標的する候補Gal4系統が実際にこの細胞を標的することを確認する。確認されれば、このGal4系統を用いた光遺伝学によりBLTを活性化したり不活性化したときに幼虫の行動にどのような影響がでるかを調べる。特に触覚、視覚の刺激に応じた後退運動の誘導への関与を調べる。また カルシウムイメージングによりこの細胞がいつ活動するのかを調べる。一方、新たに同定したτニューロンについてsybGRASP法を用いて、上流・下流の回路構造を探索する。
|