研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
20H05057
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西山 正章 金沢大学, 医学系, 教授 (50423562)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自閉症 / 神経回路 |
研究実績の概要 |
近年、大規模な自閉症の原因遺伝子探索が行われ、クロマチンリモデリング因子CHD8が最も有力な原因遺伝子として同定された。われわれはヒト自閉症患者で報告されたCHD8変異を再現したヘテロ欠損マウスの行動解析を行ったところ、自閉症を特徴付ける行動異常である社会的行動の異常や不安様行動の増加が観察された。しかしながら、自閉症の行動異常の原因となる責任細胞種は明らかになっていない。Chd8ヘテロ欠損マウスの遺伝子発現解析では、オリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現が最も顕著に低下していたことから、われわれはオリゴデンドロサイトにおけるCHD8の機能に着目した。そこで、オリゴデンドロサイト特異的Chd8ヘテロ欠損マウスを作製したところ、全身Chd8ヘテロ欠損マウスと同様に、ミエリン形成の異常や神経伝導速度の低下を示し、社会的相互作用の増加や不安様行動などの行動異常を引き起こした。さらに、拡散テンソル画像(DTI)および安静時機能的磁気共鳴画像(rsfMRI)により、オリゴデンドロサイト特異的Chd8ヘテロ欠損マウスを評価した。DTIによる解析によって、オリゴデンドロサイト特異的Chd8ヘテロ欠損マウスでは、皮質や線条体を含む特定の脳領域の微細構造が変化していることが明らかになった。これらの白質の変化の程度は、社会的相互作用の変化と相関していた。rsfMRIによる解析によって、オリゴデンドロサイト特異的Chd8ヘテロ欠損マウスでは、脳の機能的結合性が変化していることが明らかになり、皮質、海馬、扁桃体におけるその変化の程度も社会的相互作用の変化と相関していた。これらの結果から、CHD8変異によるオリゴデンドロサイトの機能異常が脳内の神経ネットワークに影響を与えており、自閉症発症の一因を担っている可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CHD8の欠損によりオリゴデンドロサイトの機能が障害することが判明したため、オリゴデンドロサイト特異的Chd8ヘテロ欠損マウスを作製し行動解析を行ったところ、自閉症様行動の一部が再現されることが判明した。さらにMRIによる解析では脳領域の微細構造と脳領域間の機能的結合性が変化しており、その変化は社会的行動と相関することが明らかになった。これらの知見は当初の研究目的に適っており、順調に達成されつつあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
われわれはすでに、Chd8遺伝子の途中にCre依存的に離脱可能なストップ配列を挿入したChd8ヘテロ欠損マウスの作製に成功している。このマウスにおいて、オリゴデンドロサイト特異的にCHD8を発現誘導し、自閉症様の行動異常が改善されるかどうかを検討する。またCre-loxPシステムやウイルスベクターを用いて、Chd8へテロ欠損マウスにおいて異常がみられた脳領域、細胞種特異的に感光性タンパク質を発現させ、光刺激を行うことでChd8へテロ欠損マウスの特定の神経活動を自由行動下に制御することによって、自閉症様の行動異常が改善されるかどうかを検討する。
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