公募研究
神経活動依存的なシナプスの伝達効率の変化(シナプス可塑性)は学習・記憶の基盤となる細胞レベルの現象として、その分子メカニズムが活発に研究され、中枢の興奮性シナプス伝達の効率がシナプス後膜上に発現するAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)の数に依存することが示されている。しかし、シナプス可塑性の起こりやすさ(メタ可塑性)のメカニズムについては、殆ど明らかにされていない。そこで本研究ではシナプス内AMPAR密度がメタ可塑性の構造実体であることを証明することを目的とし、①受容体局在解析法の高感度高分解能化、②-1光遺伝学的手法を用いた神経活動とシナプス内受容体発現様式の関連性の解析、②-2 遺伝子欠損マウスの受容体分布の解明、②-3 行動薬理学的条件下でのシナプス内分布変化の解明の4つの実験を計画した。このうち、令和2年度は①と②-1を実施した。その結果、近年有用性を見直す報告が相次いでいるglyoxalが、我々独自の免疫電子顕微鏡手法であるSDS凍結割断レプリカ標識法(SDS-FRL)にも適用可能であることを確認し、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)の検出感度が向上することを見出した。また、②-1の実験では、自由行動下のラットにシナプス長期増強現象(LTP)を誘導し45分、6時間、24時間後のホルムアルデヒド固定標本を作製し、AMPAR標識密度を解析した。その結果、誘導後45分後と6時間後でシナプス内AMPAR標識密度が一過性に上昇することを示す結果を得た。
3: やや遅れている
上記実験①で予定していた特異抗体の直接金標識化による空間解像度の向上については検討が不十分であり、信頼できる結果が得られなかった。また、②-1では、光遺伝学的的手法を用いたシナプス可塑性誘導実験を計画したが、十分なLTPを誘導できる実験条件を確立できなかった。しかし、この遅れによる研究の遅滞を回避する目的で、電気刺激によるLTP誘導実験系を用いて実験し、目的の成果をあげることができた。
①受容体局在解析法の高感度高分解能化については、完結出来なかった高分解能化について今後も継続して実施する。②-1 光遺伝学的手法を用いた神経活動とシナプス内受容体分布様式の関連性の解析については、光遺伝学的手法を取り入れた実験系を確立して、年度内に活動依存的なシナプス内AMPAR分布変化を単一シナプスレベルで明らかにすることを目指す。②-2 遺伝子欠損マウスの受容体分布については、AMPAR のシナプスへの輸送と係留に関与する分子群の遺伝子欠損マウスにおけるシナプス内AMPAR 分布と密度を、SDS-FRL 法を用いて解析する。この解析により、メタ可塑性調節に関与する分子を明らかにする。②-3 行動薬理学的条件下でのシナプス内分布変化については、シナプス可塑性の一つである長期増強現象の誘導強度が睡眠時と覚醒時で異なるなど、シナプスのメタ可塑性には生理的要素が影響している。そこで、明期と暗期、或いは種々の神経修飾系(コリン系・ドーパミン系・セロトニン系・アドレナリン系・ヒスタミン系)作動薬の投与条件下でシナプス内AMPAR 密度と分布を解析し、その影響を明らかにする。これらの解析により、「AMPARのシナプス内発現密度を制御している機構がシナプスのメタ可塑性(可塑性発現能)の構造基盤であること」を単一シナプスレベルで証明すると共に、その分子機構や関連する神経修飾系を明らかにして、「脳の記憶機構の本質」に迫る。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
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