研究実績の概要 |
近年、不安障害や鬱病に因果的に関わると考えられる神経回路が、大脳辺縁系-基底核に広く分散して存在することがわかってきた(Amemori and Graybiel, 2012; Amemori et al., 2018; Amemori, et al., 2020; Ironside et al., 2020)。 この「不安回路」の下流域には、側坐核があり、ドーパミン (DA) 回路に直接的・間接的に投射している。 このことから我々は不安障害や鬱病に伴う罰の過大評価はDA 制御の異常によって引き起こされるという仮説を立てた。本研究では、側坐核-DA の直接経路と、側坐核-腹側淡蒼球-DA の間接経路に焦点を当て、化学遺伝学による経路選択的な活動制御技術を確立させ、罰の価値判断や「不安」の生成に因果的に関わることを示す。このため、不安行動を定量化できる接近回避の意思決定課題をマカクザルに訓練し、①側坐核、腹側淡蒼球、DA細胞から課題関連活動を記録し、意欲、期待効用、葛藤なをどのように表現するかを解明する。②順行性に発現する化学遺伝学ウイルスを側坐核に注入した後、投射先の腹側被蓋野に作動薬を注入することで、側坐核-DAの直接経路を賦活・抑制し、価値判断の変化を調べる。さらに、直接経路の操作によりDA細胞の課題応答がどのように変化するかを調べる。③間接経路である側坐核-腹側淡蒼球-DA 経路の機能を調べるため、課題遂行中のサルの腹側淡蒼球に作動薬を局所注入することで、間接経路を操作し、葛藤課題への影響とDA細胞の応答の変化を調べる。このように、側坐核を中心とした局所回路が、どのように DA 応答を制御し、どのように「不安」状態が引き起こすのかを、ヒトと相同な脳構造を持つ霊長類において包括的に明らかにし、精神障害の治療につながる神経操作技術の確立に寄与する。
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