最終年度である今年度は,脳構造ネットワーク上における領野間の情報通信シミュレーションを通して得られた結果を原著論文としてまとめることと,得られた結果をヒト・マカクザル間で比較することに取り組んだ.論文にまとめる際には昨年度まで構想していた論理展開の流れを以下のように変更した.昨年度までは「脳内の情報はどのような経路選択戦略に基づいて脳構造ネットワーク上を進んでいくと考えることが妥当であるのかを明らかにする」という視点に立ち,各経路選択戦略の脳情報通信モデルとしての妥当性を,脳構造ネットワーク上におけるパケット情報通信への適性の有無を基準に評価していた.しかし,経路選択戦略の妥当性については他の研究ですでに比較的議論がなされており,通信時間と伝播に要する情報コストの両面で優れた経路選択戦略が妥当であるという本研究から得られた結論は,従来の妥当な経路選択戦略のついての結論と一致するものの,新規性を強く主張できるものではなかった.そこで経路選択戦略に比べこれまで議論されることが少なかった脳内情報の分割有無(情報を分割して送受信する「パケットスイッチング」 vs. 情報をひとまとめにして送受信する「メッセージスイッチング」)の妥当性を検証することに焦点を移した.これらの妥当性を通信時間と伝播に要する情報コストの両面で優れた経路選択戦略との親和性を評価することを通して検証した結果,パケットスイッチングの方が脳情報通信モデルの要素としてより高い妥当性をもつことが示された.現在は以上の流れで論理展開を再構成した論文の国際学術雑誌への投稿最終準備を進めている.これと並行して,得られた結果をヒト・マカクザル間で比較したところ,どちらの種の脳構造ネットワークを用いたシミュレーション解析からも同様の結論が得られることを確認できた.
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