研究領域 | 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理 |
研究課題/領域番号 |
20H05071
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石田 綾 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40424171)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 領野連関 / 神経科学 / 発達障害 / 小脳 / 前頭前野 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)については多数の原因遺伝子が同定される中で、遺伝子変異が特徴的な症状につながるメカニズムについては未解明な点が多い。近年、ASD 者では脳領域間の機能的な結合性が健常者と異なることが報告され、発達障害に共通の病態のひとつである可能性が示されている。また、小脳の病理的異常については以前から報告があり、ASD 者では小脳皮質と前頭前野の結合性に変化があることも指摘されている。これらの知見は、小脳と前頭前野が機能的に結合しASD に関連する高次機能を制御することを示唆する。しかし、2つの領域間の領野連関について生理的意義を実証した研究は少ない。 そこで本研究では、小脳と前頭前野間の領野連関に焦点をあて、その解剖学的経路と生理的意義を明らかにし、回路形成を担う分子を同定することを目的とした。2018-2019度までに、2領域間をつなぐ経路同定に必要なウイルスベクターの開発や、生理学的意義の解明に必要な自動行動解析装置によるWorking memory課題の立ち上げを行った。2020年度は、回路形成を担う分子実体を明らかにするため、深部小脳核に選択的に発言するシナプスオーガナイザーに着目し研究を遂行した。CRISPR/Cas9技術を用いて、HAタグノックインマウスを作成し、免疫組織学によりターゲットとなる分子の局在・形態解析を行っている。さらに、前年度までに開発した自動行動解析装置を利用し、ターゲット分子の生理的意義を追究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
小脳が高次機能に及ぼす意義について世界的な注目が集まる中で、回路形成を司る分子実体を明らかにした研究は少ない。本研究課題を通じ、深部小脳核に発現する特異的なシナプスオーガナイザーの存在を見出し、シナプス機能と行動制御における貴重な知見を得ることができた。これらの成果は、脳情報動態・領域会議にて報告している。また、自閉症と小脳の関係について、歴史的な見解や最新の研究動向をまとめ、雑誌「生体の科学」に総説を発表した。さらに、ASDの関連疾患であるレット症候群の原因遺伝子-MeCP2-の分子機能について研究をすすめている。これまでの研究から、前頭前野のMeCP2発現量がヘテロクロマチン構造を制御することで、マウスの情動変化を引き起こすことを見出した。本結果についても、Journal of Neuroscience誌といくつかの学会にて報告した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、小脳-大脳皮質間の領野連関の制御に関わる分子機構を明らかにするため、深部小脳核のシナプスオーガナイザーの役割に焦点を当てて研究を進める。前年度までに開発した自動行動解析装置は、Working memory以外にも様々な行動変化を捉えるために応用できる。現在は、前頭前野が関連するとされる行動の柔軟性を図る課題の立ち上げに着手しており、深部小脳核による高次機能制御機構を、より多角的な側面から解析できるものと考えている。
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