自閉スペクトラム症(ASD)における、右側頭頭頂接合部(rTPJ)の機能を検証するために、同疾患群のrTPJ前部に反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)を施行する研究を行なってきた。rTMSは、低侵襲的に中枢神経の可塑的変化を、促通性(興奮性)だけでなく抑制性にも誘導することができるユニークなツールである。このため、脳領域と課題成績の因果関係を探る認知科学研究に利用されるのみならず、精神神経疾患への新規治療法としても期待されている。 同一被験者に対して、異なるプロトコールのrTMS介入[sham刺激、intermittent theta burst stimulation(iTBS)、continuous theta burst stimulation(cTBS)]を行い、介入前後に、Posner課題、符合課題、セットシフト課題を評価した。なお、rTPJ前部の同定に関しては、機能的MRIを用いたLocalizer課題を用いることで、個人差を考慮した。また、ニューロナビゲーションシステムを用いて、解剖学的に正確な同定を行なった。12人のASD当事者の結果を解析したところ、符合課題の成績において、sham刺激と比べてcTBSによる介入前後の変化量が有意に低かった。この結果は、ASDにおいて、rTPJ前部が、処理速度や視空間認知に対して重要な役割を果たしていることを示唆する。来年度以降、対象を広げるとともに、複数のモダリティーのMRIを組み合わせた解析を行なっていく予定である。これにより、発達障害におけるrTPJを中心とした神経ネットワークの役割を多面的に検証していきたい。
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