研究実績の概要 |
神経細胞に入力される複数の情報が、どのように細胞内や回路内で統合されるのかについての基本原理の解析を線虫C. elegansのシンプル神経回路を実験系としておこなった。具体的には、酸素受容ニューロン(URX)が神経回路上で温度受容ニューロン(ADL)に作用し低温馴化を調整する神経回路を近年同定したため(Okahata et al., Science advances, 2019)、この神経回路において温度と酸素という2つの神経情報が、どのように回路上で統合や識別されるかを解析し、脳神経系における情報の統合や識別の基本原理を理解することを目的とした解析を行った。また、温度馴化の新規の神経回路制御機構の同定を行った。酸素と温度の神経情報の統合と、それによる個体のアウトプットの相関性とその分子機構を明らかにするために、下記の解析を行った。従来のカルシウムインジケーターを使うと同時に、遺伝子でコードされる最新の膜電位インディケーターも利用した。 (1) 酸素濃度を変化させ、酸素受容ニューロンと接続している局所神経回路やそのADL温度受容ニューロンの温度応答にどのような影響を与えているかを生理的に解析したが、大きな変化は見られなかった。酸素濃度の変化がより伝わりやすいデバイスを使用する必要があると考えられる。 (2) 酸素受容に異常を持つ変異体における、温度馴化の変化を測定したところ、温度馴化に以上が見られ、温度馴化に関わる新たな神経細胞が見つかってきた (3)記憶に関わる転写因子が低温馴化を制御している新しい細胞を同定した。その神経生理学的な動態を可視化するトランスジェニック系統を作製した。温度馴化の新規の神経回路制御機構が見つかってきた。
|