本研究は、視覚と運動の関係を学習して獲得した機能を、再学習させて機能転換させることで、保存されるものと再編されるものを区別し、それぞれの回路の特徴を捉え、頑強性と柔軟性の相反する視点から脳情報動態の実体を解き明かすことを目指す。これまでの研究において、頭部を固定したラットに、高コントラストの視覚刺激を用いて、縦縞でレバーを押し、横縞でレバーを引くことを学習させた。その後、低コントラストの刺激も提示すると、低コントラストでも視覚弁別課題を正解することができた。コントラストが低下して、入力情報が多少変化しても、学習後には、一次視覚野において低コントラストで強く応答する細胞の数が増えることによって、細胞集団としては、縞の傾きの情報を表現することができた。また、この時、高次運動野M2と一次視覚野V1のLFPとの相互作用が学習後には強くなる傾向が観察された。これについては、さらに解析を進めているところである。 さらに、二つの縞の方位の傾きの差分を保った状態のまま、連続的に徐々に回転させて、視覚と運動の関係を再学習させたところ、比較的高い正答率を維持した。令和3年度に、この時の一次視覚野の神経活動を解析したところ、一部の細胞では、回転させても、回転前の縦縞・横縞の視覚応答を比較的維持するような神経活動を示した。今後、例数を増やし、多脳領野の神経活動も含めた詳細な解析が必要と考えている。 このような脳の柔軟な情報表現を、今後、モデル化することで、より人間の視知覚に近い機能をコンピュータ上に再現することにも役立つと考えられる。
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