本研究では、従来の単層の金属ナノ粒子からなるプラズモン電極では困難であった、1)可視光領域での高効率な光吸収、2)表面還元反応効率の増大を達成可能な光カソードの作製、ならびに可視光応答型アンモニア合成システムの構築を目標に研究を行った。押切は、そのための方法論として、金属ナノ粒子が示すプラズモンと、金属反射膜と半導体膜からなる薄膜共振器を組み合わせた「強結合」を提案した。 前年度までに上記強結合の概念を適用したプラズモンアノードを作製し、これを用いた光アンモニア合成の高効率化に成功しており、2021年度はこれを展開した強結合型光カソードの設計・作製・実証を行った。 はじめに、電磁界シミュレーションによって強結合型カソードの示す近接場モードや遠方場スペクトルを求め、可視光に高い吸収を示す構造設計を行った。上記計算結果を基に、イットリウム安定化ジルコニア基板上に白金薄膜をスパッタ成膜し、その上にパルスレーザー堆積装置を用いてp型半導体である酸化ニッケル層を245 nm成膜した。さらに、その上に金ナノ粒子を担持した。作製した強結合カソードは可視光の広範囲で高い吸収を示し、650 nm付近では反射光はほぼ0となった。 こうして作製した強結合カソードを用い、水溶液中で還元反応を行ったところ、犠牲試薬非存在下にもかかわらず、可視光の広範囲で還元反応に基づく光電流が観測され、その入射光電流変換効率の最大値は0.2%程度であった。これは既報の非強結合下での同様の計測結果と比較して3桁程度の増大値に相当する。 以上から、強結合光カソードが従来のプラズモン電極と比較して極めて高い光吸収能、光還元能を有することを実証した。
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