光化学系I(PSI)は、光エネルギーを利用して、反応中心であるP700において遊離電子を発生させ、その電子を電子伝達系のフェレドキシンへと伝達する。その電子は、さらにフェレドキシン-NADP+酸化還元酵素へと伝達され、カルビン回路の炭素同化反応において必要なNADPHが生成される。一方、電荷分離し酸化されたP700+は、プラストシアニンから電子を受け取り、元の状態に戻る。これらの一連の電子伝達経路に関しては良く分かっているのだが、PSIと電子伝達系タンパク質の間で実際にどのように電子の受け渡しが行われているのかに関しては良く分かっていない。そこで、本研究ではクライオ電子顕微鏡単粒子解析により、PSIと電子伝達系タンパク質の複合体の構造を決定し、電子伝達機構を明らかにする。ただし、PSIと電子伝達系タンパク質の複合体は過渡的にしか形成されず、その構造決定には、電子伝達系の過渡的な複合体形成を誘導させるために、その複合体形成反応を制御する光照射システムをクライオ電顕試料凍結装置と融合させるという装置開発も必要である。2020年度は、試料の調整と試料凍結装置の開発を中心におこなってきた。タンパク質試料に関しては、PSI、フェレドキシン、フェレドキシン-NADP+レダクターゼ(FNR)は、既に調製が完了した。そして、それら精製タンパク質を用いて、NADP+からNADPHへの反応が起こることも確認した。それに加え、光酸化された反応中心クロロフィルP700+へプラストシアニンからどのように電子が受け渡され、反応中心が還元されるのか調べるために、プラストシアニンも加えた系の構築を進めた。
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