研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
20H05092
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺尾 潤 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00322173)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子伝達分子 / 有機無機ハイブリッド材料 / ロタキサン / シクロデキストリン / 自己包接 |
研究実績の概要 |
共役分子の無機材料表面への吸着においては、強い分子間π-π相互作用による凝集が発生することで、共役分子と電極の接合界面における電荷移動が妨害されることが問題点として知られている。そこで、連結型ロタキサン構造を持つ共役分子であれば、高密度の吸着、高い電子移動性の共役骨格の使用が可能となり、この問題を一挙に解決できる斬新な手段と成り得る。連結型ロタキサンの新たな構築手法の開発に着手し、様々な連結型ロタキサンの合成とその共役骨格の伸長を行った。ここではフリッピング機構による自己包接を利用することで、本来有機溶媒中では熱力学的に不利であるロタキサン構造を室温下で速度論的に単離し、有機溶媒中での反応に利用した。これにより、金属酸化物に吸着可能なホスホン酸、安定的に酸化還元可能なフェロセン、金属イオンへ配位可能なピリジンを連結型ロタキサンに導入した。また、共役長の伸長は共役分子の光学的・電子的特性に大きな影響を与える。そこで、規定された長さの共役骨格を持つ、非対称な連結型ロタキサンも合成した。連結型ロタキサンを金属酸化物表面に修飾し、その独立性及び表面電気化学特性の調査を行った。連結型ロタキサンの包接体と非包接体を無機材料表面に吸着させ、表面を原子間力顕微鏡で測定したところ、包接体では1-2 nm程度の独立した分子が観測された。一方非包接体は、5 nmを超える凝集体が観察された。凝集体の形成は、被覆されていない共役鎖間で強いπ-π相互作用が働くことに起因すると考えられ、独立性の確保にはロタキサン構造が重要であるという結果が得られた。また、包接体と非包接体を電極表面に修飾した後、電気化学測定を行ったところ、包接体は独立性を持つため分子間相互作用が抑制されることで、電子は共役分子から無機材料に効率よく注入されることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回合成した連結型ロタキサンは、無機材料表面での独立性と表面電気特性の向上が確認された。また、電気化学セルに応用したところ、コバルトクロリン錯体の触媒効率を向上させることが明らかとなった。将来、界面への接合点をホスホン酸ではなく、他の構造を導入することで、金属酸化物のみならず、金属やグラフェンなどの基板にも修飾可能であると考えられる。また、他の有用な機能性部位を導入し、より広い応用性をもつ有機・無機ハイブリッド材料を創製することが可能であることを期待している。以上の様に当初の計画以上の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
被覆型電子伝達系に基づく光 - 物質・エネルギー変換系を構築し,実際に物質変換・光電変換を実現する。被覆や共役構造を探索し,超分子構造が実デバイスに与える効果を分子内外の擾乱性に着目して解析する。被覆型電子伝達系に光捕集ユニットを連結し,有機-無機界面における電子伝達効率を評価する。また,その応用展開として光 - エネルギー変換素子の構築を目指す。無機固体を電極として接続した被覆型電子伝達系に対して,励起電子を無機材料へと電荷分離させ光電流として取り出す。いずれも被覆による分子間相互作用や熱擾乱に対する抑制効果を活用して,夾雑環境下や幅広い温度領域下であっても安定かつ高効率で稼働する光変換系の実現を目指す。
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