研究実績の概要 |
光合成酸素発生は光合成系IIタンパク質複合体中のマンガンクラスターで行われる。マンガンクラスターは4つのマンガン(Mn1-4), 5つの酸素(O1-5)とカルシウムから構成されている。マンガン間は酸素原子で架橋されているが、Mn1,Mn4とラベルされたマンガン間の結合長が長く分子構造が不安定である。Mn1とMn4の間の酸素原子O6がいずれのMnに近いかによる2つの異性体構造が存在するとされている。酸素発生反応の過程では5つの中間状態(S0-S4)が存在し、これまでの定説ではS2状態には低スピンg=2と g~4高スピンg≧4の2状態が2つの異性体構造に対応するとされてきた。本研究ではこれらの異性体以外に新たにg=5をもつ S2中間体が存在し、機能に関わることを発見した。 g=5信号は数10本からなる対称性の高いおよそ30 G間隔の超微細相互作用分離からなる信号である。本研究では4つのマンガン間の相互作用の大きさを定量的に評価をおこなった。g=5状態はS=5/2またはS=7/2の高スピン状態と考えられ、これまで考えられてきた構造とは大きく異なることがわかった。また、超微細構造ももたずg値もやや小さくははあるものの、先行研究でg=4信号と解釈されてきた信号の中にg=5状態が混在していることがわかった。これは低スピンg=2と高スピンg≧4として構造を2分類してきたこれまでの通説を否定するものである。また、g=5状態の形成要因としてマンガンクラスター周辺の電荷による構造ひずみであることを明らかにした。g=5状態をS2-S3状態の中間的なS2構造と提案して異性体の構造モデルを構築した。更に、g=5状態の、熱力学的安定性を正確に評価することによりスピン状態によって異なるS2異性体のエネルギー準位の評価を行った 。
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