太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する新技術として、水と酸素からエネルギーキャリアとして有望視される過酸化水素を製造する新たな人工光合成反応に挑戦した。申請者はこれまで、汎用の合成高分子であるレゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)樹脂を、独自の高温水熱法により合成すると、従来、絶縁体であるRF樹脂が半導体性能を発現することを見出している。本研究では、RF樹脂への (1) フェノール誘導体の導入、ならびに (2) ポリチオフェンのドープにより導電性の向上を図った。 2021年度は、RF樹脂へのフェノールのドーピングを行った。レゾルシノールとフェノールを異なる仕込み比で混合し樹脂を合成したところ活性が向上し、特に、フェノール導入量5 mol%程度で最大のH2O2生成活性が発現した。一方、多量のフェノールを導入した場合では活性は減少した。光照射下における樹脂のインピーダンス測定より、若干量のフェノールの導入により導電性が向上し、その傾向は光触媒活性と一致した。すなわち、導電性の向上が高活性を発現させる要因である。樹脂のXRD測定を行ったところ、少量のフェノールを導入した樹脂では、芳香環のπスタッキングに由来する20°付近の回折が高角側にシフトし、芳香環面間距離が短くなることが分かった。これは、水酸基の少ないフェノールが樹脂に導入されることにより、水素結合の形成にもとづく芳香環の配置制限が緩和され、強いπスタッキングが形成されるためと考えられる。これが樹脂内のドナー(ベンゼノイド体)/アクセプター(キノイド)相互作用を強めることにより、樹脂の導電性を向上させると考えられる。フェノール導入量5 mol%の 触媒は~0.9%の変換効率でH2O2を生成し、シンプルなフェノール導入による活性向上が可能であることが示された。
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