研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
20H05104
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高口 豊 岡山大学, 環境生命科学研究科, 研究教授 (10293482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人工光合成 / ナノチューブ・フラーレン / ナノ材料 / 光触媒 / PSII |
研究実績の概要 |
本研究者が見出したカーボンナノチューブ(CNT)光触媒とPSIIと組み合わせた二段階光励起系を構築し、半人工光合成系構築に必要な機能界面構造を明らかとすることで、本学術領域へと貢献することを目的とし、以下の検討を行った。 1)光機能界面への有機色素導入法に関して、色素内包CNTを利用した新たな光機能界面構築法を提案:これまで、色素/CNT/C60ヘテロ接合界面を光機能界面として利用した水分解水素生成反応を報告してきたが、新たに、ビスデシロキシデカンをコアにもつデンドリマーを用いた界面構築を行い、界面にC60が存在しなくても、光誘起電子移動による電荷分離状態を経た水素発生反応が進行することを明らかとし、色素増感水分解反応系構築に必要な光機能界面の設計指針に必要な知見を得ることができた。 2)可視光利用効率向上に必要な電子抽出材料の探索:これまで、CNTの2つの主要な光吸収帯のうち、近赤外領域の吸収帯(E11遷移)については、10%を超える外部量子収率(EQY)で水素生成反応が進行するが、可視光領域の吸収帯(E22遷移)においては、EQYが1%以下であることが分かっていた。この原因について調査するため、電子抽出材料をC60からTiO2に変えたところ、E22遷移を経た水素生成反応のEQYが40%を超えることが明らかとなり、界面における軌道相互作用が電子抽出を高効率化する鍵であることが明らかとなった。 3)PSIIとCNT光触媒からなる二段階光励起系の構築と最適化:PSIIを酸素発生光触媒、CNT光触媒を水素発生光触媒に用いたZ-scheme型光触媒系を構築したところ、水素と酸素の発生に成功した。現在までのところ、電子メディエーターのTONが1を超えておらず、まだ、十分な効率が得られていないので、反応条件の最適化検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
色素内包CNTを水素発生光触媒へと利用する上で必要な、光機能界面構築法を見出し、原著論文として発表した。これにより、PSIIとCNT光触媒とを組み合わせた二段階光励起系に、有機色素を組み込むことができるようになった点は、半人工光合成系構築の研究において、大きな進歩であると考えられる。 さらに、PSIIとCNT光触媒を組み合わせ、2-フェニルベンゾキノンを電子メディエーターとして利用すると、可視光照射下で、水素と酸素が、およそ2:1の生成比で観測されたことから、二段階光励起系が構築できているという結果が得られている。ただし、キノンのTONが1を超えておらず、より少量のキノンで効率よく電子を輸送することができるように反応条件などの最適化が必要である。 その他、反応効率向上に必要な、電子抽出材料の必要条件など、半人工光合成系構築に必要な光機能界面設計のポイントが、少しずつ明らかとなってきており、今後の検討により、当初の目的は十分達成しうる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度前に、引き続き、CNT光触媒とPSIIとを組み合わせた二段階光励起系の最適化を試み、水完全分解を達成することを目的とし、以下の検討を行う。 1)PSIIの安定化と活性維持に必要な緩衝液中(リン酸緩衝液およびMES緩衝液)で、水素生成助触媒として用いるRu錯体の活性が低下することが明らかとなっているので、これら緩衝液中でも活性が維持されるRu錯体を探索する。 2)電子抽出材料にC60を用いた場合、可視光領域(E22)励起の活性が予想より低くなる原因が、CNTとC60との軌道相互作用の小ささにあることが明らかとなったので、より軌道相互作用の大きな電子抽出材料を用いた検討を進める。 3)色素内包CNTを水素発生光触媒へと用いるための光機能界面構築法が明らかとなってきたので、こうした研究を更に推進し、色素増感水完全光分解系の構築を試みる。 4)これら1)~3)の検討を組み合わせCNT光触媒とPSIIとを組み合わせた二段階光励起系の最適化に挑戦する。また、電子メディエーターとして利用するキノンの安定化手法が重要と考えられるため、様々なキノンを利用した検討を進める。
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