本研究「相間移動型電子伝達に基づくZ-スキーム光触媒システムの創成」では、有用生成物を得る還元反応と水の酸化反応を相分離したそれぞれ異なる溶媒相で進行させることで反応場を分離した新しい光触媒システムを構築し、水を電子源とした人工光合成反応を高効率化することを目的とした。本光触媒システムの最大の利点は、酸化と還元の光触媒反応場の分離によって光エネルギー変換効率低下の原因となる逆電子移動過程を空間的に排除することであり、それを実現するための鍵となるのは 「異相溶液間を行き来する電子伝達体」の開発である。 令和3年度の研究では、フェロセンを「異相溶液間を行き来する電子伝達体」の候補として検討を行なった。フェロセンは水に難溶であり、水と有機溶媒の二相溶液中において有機相に分配され、有機相中に共存させた光増感錯体に対して光誘起電子移動を進行した。さらに、電子供与によって生成したフェロセニウムイオンは有機相から水相へと移動し、電子伝達体の還元体(フェロセン)と酸化体(フェロセニウムイオン)を分配により空間的に分離が可能となった。この光電子移動が共役する相間移動現象を利用して、二相溶液中における有機基質の還元的カップリング反応に成功した。 有機相に適切なアニオンを共存させることでフェロセニウムカチオンの相間移動を促進し、光触媒効率を大幅に向上することを見出した。以上より、反応場を二相溶液により分離し、相界面を横断する電子伝達体を用いる本研究のコンセプトが光触媒効率向上に対して有効な手法であることを示し、その設計指針も明らかにした。
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