公募研究
環境に優しいエネルギー源である水素の製造手段として、水と太陽光からのみ水素を得られる水分解光触媒の利用が期待されている。このような光触媒の高活性化には、活性サイトとなる助触媒と呼ばれる金属微粒子を担持することが有用である。しかし、一般的な電着法や含浸法といった担持法では助触媒の大きさや組成の微細領域での制御は困難である。一方で、金属ナノクラスター(NC)は、金属コアの組成や配位子の組み合わせを制御しながら精密に合成することが可能であり、これを助触媒前駆体に用いることで均一な助触媒のサイズ制御が可能となる。本研究では白金(Pt)NCを助触媒前駆体に用いることで、1 nm程度の白金粒子を光触媒(g-C3N4)に担持することで、活性の向上を目指した。実験では、ポリオール還元法によりPt NCを合成した。トルエン中で撹拌することで、Pt NCをg-C3N4上に吸着させ、焼成により配位子を除去した(Pt NC/g-C3N4)。得られた光触媒の評価は粉末X線回折(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線吸収微細構造(XAFS)解析等を用いた。Pt NC/g-C3N4のTEM像から、本手法では1.2 nmの粒子が光触媒に担持されていることが明らかとなった。また、X線吸収端近傍(XANES)スペクトルより、含浸法(Pt(含浸)/g-C3N4)や光電着法(Pt(光電着)/g-C3N4)で作製した場合に比べて、本手法で担持したPt NCは金属的な状態で担持されていることが示唆された。Pt NC/g-C3N4は、Pt(含浸)/g-C3N4やPt(光電着)/g-C3N4に比べ、それぞれ23倍と11倍も高い活性を示した。このような活性の向上は、Pt NCの1) 微細化による活性サイトの増加と、2) 特異な電子状態に伴うプロトン吸脱着エネルギーの変化によって生じたと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題研究では、可視光応答水分解光触媒の創製を目的としている。本年度にて既に、最先端可視光応答水分解光触媒の一つであるg-C3N4については高活性化に成功した。このことから、現在までの達成度を「当初の計画以上に進行している」と自己評価した。
助触媒の電子/幾何構造と水分解活性の相関を解明することで、高活性化へのキーファクターを明らかにするとともに、可視光応答水分解光触媒の更なる高活性化の創出に取り組む。具体的には、担持金属クラスターの電子/幾何構造を明らかにする。電子構造については、拡散反射分光などを利用する。常温下での測定では、振動励起に起因して、多くの遷移が重なった複雑かつブロードなピークを有するスペクトルのみが得られる。本研究では、低温(10 K)にて測定を行うことで、スペクトルのブロード化を抑え、電子構造の詳細の観測を実現する。また、広域X線吸収微細構造解析により、担持金属クラスターの電荷状態の詳細や幾何構造に関する情報を得る。こうした放射光実験については、それらを得意とするB02班の野澤准教授らと連携しながら研究を進める。また、得られたスペクトルを本領域の理論研究者と協力しながら解析することで、電子状態に関する深い理解を得ることを目指す。こうして得られた情報をつきあわせることにより、担持金属クラスターの化学組成及び電子/幾何構造と水分解光触媒活性の相関を明らかにするとともに、そうした情報より、活性向上に対するキーファクターを炙り出す。こうして得られた知見をもとに、高活性化に適した合金クラスターを創案・合成し、再度、一連の実験を行う。これらの一連の実験を繰り返すことで、可視光応答水分解光触媒の飛躍的な高活性化を実現する。
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