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2020 年度 実績報告書

天然の光合成の仕組みを模倣したルテニウム酸素発生触媒の開発

公募研究

研究領域光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製
研究課題/領域番号 20H05116
研究機関立教大学

研究代表者

和田 亨  立教大学, 理学部, 教授 (30342637)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード水の酸化反応 / 錯体 / ルテニウム
研究実績の概要

本研究は、天然の光合成酸素発生中心(OEC)の反応機構を模倣した人工系ルテニウム錯体触媒を用いて、中性付近のpHにおいて低過電圧で水の酸化を実現することを目的とする。OECの近傍に存在するチロシン残基のフェノールの電子アクセプターとしての機能を人工的なルテニウム錯体触媒に導入した錯体1を合成した。フェノール部位をもたない錯体と同条件下で比較すると、錯体1はより低過電圧で高TON、高TOFで酸素発生することが分かった。また電子吸収スペクトルとESRスペクトル測定の結果から、反応中にフェノール部位が1電子酸化された化学種が生成することが分かった。また、本研究では分子内に光増感部位を有する酸素発生触媒2も合成した。錯体2は、それぞれの単核錯体の酸化還元電位、吸収波長、発光波長とほぼ同じ値を示したことから、酸素発生触媒部位と光増感部位の間に相互作用はないことが分かった。サイクリック・ボルタンメトリー(CV)から、アルカリ性領域では、光増感部位を持たない単核錯体よりも低過電圧で酸素発生が可能であることが分かった。これは、フェノール部位を有する錯体1と同様に、酸化された光増感部位が触媒部位に対する電子アクセプターとして働くためだと考えている。現在、より中性の領域でも駆動する触媒を目指して、酸素発生部位の改良を行っている。さらに、錯体1を用いて光化学的な水の酸化反応についても検討を行ったところ、わずかではあるが酸素発生が確認された。単一分子で光化学的な酸素発生反応を触媒した例は非常に少なく、その反応機構を解明することができれば、さらに高活性な触媒を設計する上で重要な知見が得られるものと考えている。現在は、反応条件の最適化と反応機構の解明を行っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究では、天然の光合成における酸素発生の仕組みから着想を得て、水の酸化反応の触媒するルテニウム錯体にフェノールを導入した錯体1と、光増感部位としてRu(bpy)3 (bpy = ビピリジン)を導入した錯体2を合成した。錯体1の研究では、反応中間体として重要なフェノールラカチオンラジカル種の検出に成功した。研究協力者によるDFT計算から水酸化物イオンが高原子価ルテニウムオキソ錯体へ求核攻撃すると同時に、フェノールカチオンラジカルへ電子移動することによってO-O結合が形成するという全く新しい反応機構が提案された。現在、計算化学から提案された反応機構を実験的に証明するため反応中間体の性質に関する研究を進めている。また、錯体2は合成の難度が高いものであったが、予定よりも早く合成に成功した。そのため各種の測定が進み、触媒部位と光増感部位が極近傍に存在しているにもかかわらず、両者に電子的な相互作用がほとんどないことが明らかにされた。電気化学的には、錯体1には劣るものの、フェノールや光増感部位を結合していない単核錯体よりも、錯体2は高い触媒活性を示すことも明らかにした。過硫酸ナトリウムを犠牲酸化剤として用いることで、錯体2は光化学的にも酸素発生することが分かった。まだ最適な反応条件を探索している段階なので酸素発生量は少ないが、単一分子で光化学的な水の酸化を触媒した例はこれまでに数件の報告があるのみである。反応機構に関する情報が得られてくれば、触媒構造の改良も可能である。さらに、複核構造を有するルテニウム光増感剤の合成にも成功し、単核錯体とほぼ同等の光物性を維持していることが分かった。光増感剤として広く用いられているRu(bpy)3と同様の条件で、一度に2電子移動が可能な新しい増感剤として機能すると予想される。以上のように、本研究は当初の計画よりもはやく進展しており、順調に推移している。

今後の研究の推進方策

2021年度は主に、(1)フェノール部位を有するルテニウム錯体触媒1を用いた電気化学的な水の酸化反応の機構解明、(2)光増感部位を有する酸素発生触媒2を用いた光化学的な水の酸化反応、(3)複核構造を有するルテニウム光増感剤を用いた光化学反応、について研究を推進する予定である。まず(1)に関しては、これまでの実験とDFT計算により反応機構の大枠は分かった。そこで鍵となる中間体である[Ru(IV)=O, (PhOH.+)]の物性と反応性の詳細を検討し、反応機構を決定する。その為にESRで検出されている[Ru(IV)=O, (PhOH.+)]種と水の反応により、酸素が発生することを確認する。(2)では、まず光化学的な水の酸化反応の反応条件の最適化を行う。その後、反応機構に関する知見を得るために、錯体2を結合した修飾電極を作成し、バイアス電圧を印加しながら光化学的な水の酸化反応を行う。これによって光が関与している素反応過程を明らかにする。(3)では、合成した複核光増感剤の励起寿命と犠牲酸化剤による消光定数を決定する。さらにこの複核光増感剤と当研究室でこれまでに開発してきた二核ルテニウム酸素発生触媒を組み合わせて、光化学的な水の酸化反応について検討を行う。最終的には、(1)(2)で開発した水の酸化触媒と(3)で開発した複核光増感剤を組み合わせて、高効率な水の酸化反応を目指す。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件)

  • [雑誌論文] Photochemical Water Oxidation Using a Doubly N-Confused Hexaphyrin Dinuclear Cobalt Complex2021

    • 著者名/発表者名
      Nakazono Takashi、Wada Tohru
    • 雑誌名

      Inorganic Chemistry

      巻: 60 ページ: 1284~1288

    • DOI

      10.1021/acs.inorgchem.0c02602

    • 査読あり
  • [学会発表] 二重N-混乱ヘキサフィリンを配位子としたコバルト二核錯体による光酸素発生反応2021

    • 著者名/発表者名
      中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] アントラセンで架橋された二核レニウム錯体触媒による光化学的二酸化炭素還元反応2021

    • 著者名/発表者名
      櫻井翔太、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 二重N-混乱ヘキサフィリンを配位子とした二核コバルト及びニッケル錯体の電気化学的水素発生反応2021

    • 著者名/発表者名
      高田里咲、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 二核コバルト錯体触媒による酸素還元反応に対するビピリジン配位子上の置換基効果2021

    • 著者名/発表者名
      有馬弘晃、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] ヘキサフィリン二核鉄錯体の光化学的酸素発生挙動2021

    • 著者名/発表者名
      菅原大地、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 電子アクセプター部位として[Ru(bpy)3]を有するルテニウム-アクア錯体の合成と酸化還元挙動2021

    • 著者名/発表者名
      森田悠斗、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 二重N-混乱ヘキサフィリン二核鉄錯体による電気化学的および光化学的二酸化炭素還元反応2020

    • 著者名/発表者名
      伊藤喬、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      錯体化学会第70回討論会
  • [学会発表] アントラセンにより架橋された二核レニウム錯体触媒による光化学的CO2還元反応2020

    • 著者名/発表者名
      櫻井翔太、粕谷千里、中薗孝志、和田亨
    • 学会等名
      錯体化学会第70回討論会

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公開日: 2021-12-27  

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