研究実績の概要 |
光合成では光合成系Ⅱに存在するマンガンクラスターが水の酸化反応を触媒している。マンガンクラスターの近傍にはチロシン残基が存在し、そのフェノール部位が電子移動において重要な働きをしている。本研究では光合成の仕組みを模倣して、ルテニウム錯体にフェノールを導入した錯体1を合成した。電気化学的な水の酸化反応では、フェノール部位を持たない錯体2と比較すると、錯体1の過電圧は150 mV低下し、触媒回転数(TON)は6.3倍、触媒回転頻度(TOF)は4.2倍になった。この反応機構を解明するために、有機溶媒中で錯体1を酸化し、紫外可視吸収スペクトルとESRスペクトルを測定した。紫外可視吸収スペクトルではRu(II)に由来する吸収帯が消失し、新たに630 nm付近にフェノキシラジカルに由来する吸収帯が生成した。ESRスペクトルでも、フェノキシラジカルに由来する比較的線幅の狭い等方的なシグナルがg =2.0039に観測された。 これらの結果から、反応中間体として[Ru(IV)=O,フェノキシラジカル]が生成することが明らかになった。DFT計算からも、この中間体に対して水酸化物イオンが求核攻撃することでO-O結合を形成する機構が有利であることが示された。以上の結果から、反応中心であるルテニウム部位に対して、酸化されたフェノール部位が電子アクセプターとして機能することによって低過電圧で水の酸化が進行することを解明した。また、天然に広く存在するポルフィリンの環拡張類縁体である二重N-混乱ヘキサフィリンを支持配位子とする二核コバルトおよび鉄錯体が光化学的な水の酸化反応に対して高い触媒活性を示すことを明らかにした。さらに、錯体1と類似の構造を持つ二核コバルト錯体が、水の酸化の逆反応である酸素還元反応に対して高い触媒活性を示すことを見出し、その反応機構を解明した。
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