研究実績の概要 |
光合成細菌の光捕集アンテナLH2やLH3は、カロテノイドおよび2つのbacteriochlorophyll色素団B800とB850(またはB820)により太陽光を捕集する。これら光捕集アンテナ群の吸収は、630 nmから760 nmにかけて比較的弱い。そこで、この波長領域に吸収帯を持つ蛍光性色素を光捕集アンテナ系に導入し、その光捕集能力の拡張を我々は試みてきた。ここでは、(a)人工的な色素を共有結合でLH2に連結したバイオハイブリッド、(b) LH2と人工色素を脂質二分子膜中に封入した系、(c) LH3中のB800を酸化反応により別の色素に化学的に変換した系の3つについて、フェムト秒過渡吸収(TRTA)スペクトル測定を行った。(a)については、付加する色素の発光波長およびリンカーの長さを変えて実験を行った。その結果、人工色素からLH2へのエネルギー移動は、Forsterの蛍光共鳴エネルギー移動機構でおおよそ説明できるが、その一部はアクセプター側の色素団の高励起子状態を通じてコヒーレントに起こることが示唆された。よって、その研究成果を論文として発表した。【Phys. Chem. Chem. Phys., 24, 24714 (2022)】(b)の系では、色素とLH2が化学結合で連結していないにもかかわらず、3ピコ秒から13 ピコ秒の時定数で起こる超高速のエネルギー移動が観測できたので、論文として発表した。【J. Chem. Phys., 156, 095101 (2022)】(c)の系についても、効率的にB800を酸化し、3-acetyl chlorophyllに変換することに成功した。さらに酸化されたB800からB820への高効率なエネルギー移動を観測できたので、論文として発表した。【J. Phys. Chem. B, 127(12), 2683 (2023)】
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