本年度の研究では、緑色硫黄細菌Chlorobaculum tepidumとメタン菌Methanococcus maripaludisを同一の培地で培養する「混合系」での共培養を試みた。緑色硫黄細菌とメタン菌の共培養に前例はなく、当然ながら混合系に適した培地も知られていなかったため、本研究により両菌種が生育可能な無機培地を新たに作成した。両菌種の単独培養に使用される培地の組成を比較し、片方の菌種が特異的に要求する栄養物質がもう片方の菌種の増殖に与える影響を調べた結果、両菌種の栄養要求性は大部分が共通していたが、M. maripaludisは海洋性であるために増殖にナトリウムイオンが不可欠であることがわかった。逆にC. tepidumの増殖は高濃度のナトリウムイオンで阻害されたため、それぞれの濃度依存性を調べることで両菌種が増殖可能なナトリウムイオン濃度を見出した。一方、M. maripaludisではナトリウムイオン非存在下での培養中にpHが変化してしまったが、培地のpH緩衝剤を再検討することでpH恒常性を担保できることがわかった。これらの結果を総合し、C. tepidumとM. maripaludisのどちらもが単独で増殖可能な培地の化学組成を決定した。この培地をもちいてC. tepidumとM. maripaludisの混合系での共培養を行った結果、気相中に有意なメタンの蓄積が認められた。混合系でのメタンの蓄積は両菌種の増殖とC. tepidumの光合成的な水素生成に依存していた。メタンの蓄積量は、C. tepidumとM. maripaludisの両菌種の単独培養に使用される培地を当量混合しただけの非最適化培地を使用した場合の10倍以上であり、両菌種が最適な培地で増殖する気相共有系での共培養に比肩する量であった。これは、天然には存在しない生物プロセスである「光合成メタン生成系」が実現可能であることを強く示唆している。
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