研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
20H05125
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
相馬 拓也 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (60779114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルタイ山脈 / オーラルヒストリー / 環境適応 / 伝統知 (TEK) / キルギス / 牧畜文化 / 遊牧民 |
研究実績の概要 |
昨年に引き続き2021年度は、COVID-2019による渡航制限からモンゴル国内への入国が不能であった。新規データの獲得が困難であったことから、調査地を代替地のキルギス共和国に移し、ローカルな伝統知[調査系統①定量社会調査T1]の収集と考察を行った。 キルギスでのフィールド調査第1期では、イシククル湖南岸のボコンバエヴァ周辺および、ナリン高原で牧畜活動従事者・長老級人物・狩猟者など22名を訪問し、半構造化アンケートと、エスノグラフィック・インタビューを実施した。聞き取り調査から、キルギスではイシククル湖周辺のユニークな植生などから、在来有用植物・薬草の利用方法が多数聞かれた。また、動物民話とフォークロアからは、キルギス牧畜民と野生動物たちとの独特の関係がうかがわれた。とくに近年、ドールの中央ユーラシア地域への侵入により、オオカミとともにドールによる家畜被害も多数発生している現状が確認された。 第2期フィールド調査では、キルギス南部クンゲイ・アラトー山脈に位置するバイボースン自然保護区(BBs)を中心に、動物と人間、とくにユキヒョウと地域居住者の関係性についての調査を実施した。同自然保護区の3,600m付近にトラップカメラ5台を設置して、ユキヒョウの行動観察および、棲息圏の暫定確認を行った。9月18日~翌4月末までに、ユキヒョウ映像25件、野生動物80件が撮影された。カメラ設置地点ではウマ、ヤク、ウシが通年で自由放牧しており、キルギス国内でももっとも人間の生活圏に近い宿営地と考えられる。 草原世界のニッチ構築のなかで、キルギスでの動物との関わり合いのなかから生じた多様な精神文化は、「文明形成」を支えるひとつの文化様式でもあることが。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
COVID-19の影響があるものの、既存データを理論的に整備することで、新たな視座として整備することができた。この研究成果は、単著『草原の掟―西部モンゴル遊牧社会における生存戦略のエスノグラフィ』(ナカニシヤ出版/2022年2月)として出版した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 新規課題として、モンゴル、キルギス、カザフスタンなど、広く草原世界を対象とした新規課題に採択されている。そのため、より広域なモンゴル~シルクロードの遊牧民にかんする既存のエスノグラフィック・データを、世界的な牧畜文化の文脈に紐づけし、地域固有の特異性や共通点を導き出す。 (2) 古代世界における狩猟・遊牧・農耕・モニュメント建築などについて類推を可能とするオルタナティブな民族誌として整備する。また天山山脈~タリム盆地の古代遊牧民の古墳や遺物調査の報告書を、現代遊牧民の家畜管理方法や遊動の事例から、解釈を試みている。 (3) 出ユーラシア現象を後押ししたような、人間の広域空間移動の可能性を、遊牧民の遊動性から解明する。とくに、①遊牧民の種雄家畜の交換経路のネットワーク分析、②季節移動や長距離移動のマイグレーションとなりうるドライビングフォースの特定、を実証的に解明する。
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