東ユーラシアにおける文化の転換(例:農耕の発達や国家の形成)が人類集団の移動や混血に与える影響を理解するために、本研究では日本列島の考古学遺跡に由来する古人骨のパレオゲノミクスを実践した。縄文人9個体と古墳時代人3個体のゲノムを新たに生成し、これまで発表されている日本列島及びユーラシア大陸における古人骨ゲノムデータと合わせて集団遺伝学解析をおこなった。まず、先史時代における文化の転換に伴うゲノム多様性の変遷を評価した。その結果、縄文人・弥生人・古墳人と時代を追うごとに、大陸における集団との遺伝的近縁性が強くなっていく傾向が示された。一方、縄文人は大陸集団とは明確に異なる遺伝的特徴を有していた。そして、渡来民による稲作文化がもたらされてとされている弥生時代には、北東アジアを祖先集団とする人々の流入が見られ、縄文人に由来する祖先に加え第2の祖先成分が弥生人には受け継がれていた。しかし、古墳人にはこれら2つの祖先に加え、東アジアに起源をもつ第3の成分が存在しており、弥生時代から古墳時代に見られた文化の転換において大陸からのヒトの移動及び混血が伴ったと考えられる。これら3つの祖先は、現代日本人集団のゲノム配列にも受け継がれてる。したがって、本研究ではパレオゲノミクスによって、狩猟採集から稲作、そして国家の形成に至る文化の転換が日本人ゲノムの多様性に影響を与えたことを示唆している。 さらに、アメリカ大陸においてヨーロッパ人の大規模な移住が起こる以前のネイティブアメリカンにおける遺伝的多様性を明らかにするために、マヤ文明に由来する遺跡から出土した古人骨7個体に関して、全ゲノムショットガンデータを生成することに成功した。
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