研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
20H05137
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中橋 渉 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 准教授 (60553021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 数理モデル / 文化的ニッチ構築 / 比較生物学 / 生物拡散 / 考古データ |
研究実績の概要 |
人類、特にホモ・サピエンスの拡散については、しばしば、さもそれが特別にすごいことであったかのように表現される。そして当該新学術プロジェクト「出ユーラシア」で着目されている「文化的ニッチ構築」や、あるいは「好奇心」や「冒険心」といった要素がそれに大きく寄与したかのように何の科学的根拠もなく語られる。しかしヒトの分布域拡大は、ヒト独自の何かを持ち出さなければ本当に説明できないのであろうか。実際に他の多くの生物も様々に分布域を広げており、それらと比べてヒトの拡散が本当に特別な現象だったのかは注意深く検証されなければならない。そこで本研究課題では、ヒトの拡散過程を他の生物、特にデータの豊富な侵入生物の拡散過程と数理モデルを用いて比較することを試みている。当該年度の研究において、侵入生物のデータベース(Global Invasive Species Database)を用いてヒト以外の哺乳動物の拡散過程を調査し、その拡散速度がヒトと比べて決して遅くはないことを明らかにした。例えば新人(ホモ・サピエンス)の年あたりの拡散速度は、ヨーロッパで約0.8km、アジアで約1.5km、アメリカで約13kmだったが(ただし考古データの解釈次第で、それなりに前後しうる)、年あたり数kmから数十kmで拡散する生物は、マスクラットやアカギツネなど数多く存在する。この事実は、拡散の速さがヒトの特異性を示すという通説に対する重要な反証となる。このように、定量的な比較生物学的視点から、先入観にとらわれずにヒトという生き物を見直すことは人類進化の研究において極めて重要であり、出ユーラシアプロジェクト全体に対しても大きな問題意識を投げかけるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス問題で大学が一時閉鎖されるなど、多くの想定外の障害があったため、当初の計画とは多少変更をせざるを得なかったが、侵入生物の拡散データの収集は順調に進んでおり、数理モデルを交えた解析への道筋は見えてきつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題は、ヒトの拡散過程に関する考古データを精査し、他の生物と比較可能なデータの中から、ヒトの特異性を表すパラメータを探ることである。またそのためには、拡散過程を考慮する数理モデルを構築し、どのようなデータが何を意味するのかを整理する必要がある。このようにして、考古データ調査と数理モデル研究を並行して行うことで、ヒトの分布域拡大をもたらせたヒト特有の要素を探る。
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