本研究の目的は、古代メキシコにおける古代都市の萌芽と発展を解明することにある。物質性と物質化を基にした空間支配の確立と拡大が、都市の興隆に必要不可欠であったとの仮説を検証している。先行研究により、都市化の動きはポポカテペトル火山の大噴火(後70年頃)による社会の解体と再編にあったことが理解されていた。一方で、この再編に臨み各地域の集団はどのように災害に対応し発展の成功を収めたのかについては研究が進んでいなかった。研究代表者はピラミッドに着目しこの考察を深めた。それは、都市化の原動力はピラミッドにあったとの仮説と関連する。 メソアメリカの古代人は、世界は天上界、地上界、地下界から成り立ち、これらに住む神々と交信することで世界の安寧が約束されると信じた。それは、神々は人々に恩恵を授けると同時に、天災(地震、旱魃、洪水、噴火など)をもたらすからである。そして、この天災を軽減するためには、祭壇(ピラミッド)を建造し神々と対話する必要があった。 発掘調査のデータの精査から、大噴火以前と以降でピラミッドの内部構造と建築資材に大きな変化(強度化)があったことが分かった。この強度化の理由は、神々と交信する舞台の倒壊は人々の願望を届ける装置の崩壊を表し、社会の混乱を悪化させるからである。 メソアメリカの古代人は、物質空間と観念として確立した空間の両者を行き来する世界を生活拠点の中で物質化していたと言える。彼らにとっての宇宙とは、大気圏外の物理空間を指すのではなく、物質的世界と精神的世界が統合された空間を意味する。 現在までの研究では、都市化への移行は権力集団の登場、交易網の発達、技術力の向上、生業の発展による余剰から議論が行われてきた。これに対し、本研究では象徴空間の体系化と物質化に着目し解明を進めた。都市の発生原動力に対して、新たな観点とデータ並びに解釈を提示できたと考える。
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