本研究の目的は、パフォーマンス理論と実践理論を視座に、メキシコの古代マヤ遺跡、エル・パルマールの王宮を平面的・層位的に発掘して、A03班の研究課題である古代社会における戦争と階層化(不平等の制度化)の関係性を解明することである。これまで古代マヤ王朝における戦争と階層化の研究は、自然環境変化、碑文や威信財の交換から解釈する王朝間交流といったマクロ的視座に依拠してきた。しかし、日々の実践が大きな社会変化を引き起こすという事実は、歴史民族学や社会学調査によって実証されている。本研究は、交換や碑文研究によるマクロ的視座を取り入れながらも、王族の日常的実践というミクロ的視座から古代社会の階層化と戦争の関係性を考察する点に特色がある。その際に、発掘によって収集した王族に関する資料を、申請者がこれまでの先行研究によって蓄積してきた非王族エリート集団のデータと比較する。 本年度は、王宮の複合建築物PM3に付随した広場Gと宮殿にある中庭を、研究協力者であるメキシコ国立自治大学人類学研究所のルイス・バルバ教授との共同調査によって地中レーダー(Ground Penetrating Radar)探索を行い、前時代建造物の特定を試みた。調査の結果、広場Gと中庭に前時代の建物を確認できた。 広場Gにおける諸活動を、遺物の分布と床に付着している残留物の化学分析によって明らかにした。ショベル発掘によって25 cm x 25 cmの試掘を5 m間隔で実施し、床面を確認したのちにサンプルを採取した。次に、採取した床に付着した有機物と無機物の分布を化学残留分析によって明らかにした。その結果、広場の北東部分に遺物の集中を確認でき、そこにはリン酸、タンパク質、脂肪酸も集中していた。これは食べ物に関する何らかの活動が日常的に繰り返えされた結果である。
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