公募研究
本研究では,分子性有機物質である量子スピン液体k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3を対象として,スピン非秩序状態における電荷(ダイマーダイポール)ゆらぎ-分子格子フォノン結合によるクラスター化・液晶化形成を低エネルギー分光手法により実験的に明らかにすることを目的としている.2020年度は,同物質に対する遠赤外-赤外分光測定による電荷揺らぎを反映する低エネルギー領域での光学スペクトル測定を行い,モット絶縁体状態であるはずの量子スピン液体状態において,明瞭な光学ギャップが開かずに電荷が揺らいだままである兆候をブロードな励起構造として観測した.また,同物質に対してエックス線照射を行い分子欠陥生成によるランダムネスを導入すると,このブロードなギャップレス励起が増強する様子が観測された.この結果は,本物質の量子スピン液体状態に特徴的な電荷ゆらぎ(ダイマーダイポールゆらぎ)が励起スペクトルとして現れ,この起源となる極性領域のサイズや分率がランダムネスの導入により変化することを示している.この結果は,ダイマーダイポールのゆらぎが量子スピン液体状態形成の要因である可能性を示すものである.この電荷状態については,分子格子との結合も合わせて考える必要がある.このため非弾性中性子散乱実験による格子ダイナミクス測定を計画し,試料準備と中性子実験施設(フランス)との調整,またリモート実験のテストなどを行った.くわえて,領域内共同研究として二次元カゴメ格子をもつ金属有機構造体における超伝導状態研究を行い,非従来型超伝導を示すことを発見した.本共同研究では,本物質が示す金属性を光学スペクトルから検証することを目的に,遠赤外-赤外反射分光測定を行った.実験結果から,超伝導の非従来性を議論するために必要となる,キャリア数,有効質量などの基礎電子物性パラメーターを得ることができた.
3: やや遅れている
量子スピン液体物質k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の電荷揺らぎ状態で発現する6K異常に関して,圧力下での静磁化測定を行い,圧力下超伝導状態への接続についても調べる予定であったが,圧力セルからのバックグラウンド測定に時間を要している.現在,再現性を確保できるようになったので,2021年度において進捗させることができる.
2021年度には,量子スピン液体物質k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の非弾性中性子散乱実験を行うために2020年度に行った試料準備,実験実施についてのオンラインでの海外共同研究者との打合せ,現地との間のリモート実験テストなどをもとに,フランスグルノーブル中性子散乱実験施設を利用した実験を,新型コロナ感染の収束状況による現地での実施可能性も検討しつつ,リモート実験を実施する.この非弾性中性子散乱実験の結果とその解析により,スピン-電荷のゆらぎと分子格子との相関を明らかにする予定である.2020年度実施の光学スペクトルの結果と合わせて,非弾性中性子散乱スペクトル,圧力下静帯磁率測定の結果を統合して「6K異常」の起源を明らかにする.あわせて,圧力下超伝導と6K異常の関係性を明らかにし,超伝導状態の特異性解明を進める.
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Science Advances
巻: 77 ページ: eabf3996-1-7
10.1126/sciadv.abf3996
http://cond-phys.imr.tohoku.ac.jp/index.html