研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05145
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電場誘起超伝導 / ネマティック超伝導 / 量子液晶 / 電気二重層トランジスタ / 強誘電性と超伝導の共存 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、SrTiO3電気二重層トランジスタ(EDLT)において発現すると予測される、強誘電性や多軌道性を起源とした新規ネマティック超伝導の可能性を検証し、その発現条件および特徴・独自性を明らかにすることである。 2020年度は特にこの系の強誘電性と金属性の共存状態の有無に注目した実験を行った。広範囲にキャリア密度を変化させながら、SrTiO3-EDLTにおける電気抵抗の温度依存性を測定したところ、この系が約70Kの常伝導状態において、温度履歴に対して大きなヒステリシスを伴った明瞭な電場誘起型の強誘電転移を起こし、電気抵抗の一方向性(非相反性)が持ちながら強誘電性と共存した金属性を示すことを発見した。研究開始当初、これまでの元素置換したSrTiO3の報告例から、この系の強誘電転移は電気抵抗のわずかな上昇に現れると予測していたが、本研究で取り扱うEDLTの特徴である強い電場により、これまでの報告とは質的に違う明瞭な強誘電転移が現れることとなった。この強誘電性を伴う金属状態は低キャリア密度(単位胞面積あたり0.1~0.3個)で顕著に現れるだけでなく、同キャリア密度領域では0.4K以下の極低温で超伝導転移も観測されている。よってSrTiO3-EDLTにおいて当初の狙いの1つであった強誘電性と共存した超伝導状態が実現されることがほぼ確実となった。 さらに面内磁場中での電気抵抗の一方向性を調べたとことろ、高温から現れる強誘電性由来のものに加え、約20K以下においてSrTiO3の多軌道性によって増強される反対称スピン軌道相互作用由来の一方向性が重なって現れることも明らかにした。以上の結果よりSrTiO3-EDLTには当初の予想通り、2種類のネマティシティの起源となり得る効果が存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、SrTiO3電気二重層トランジスタ(EDLT)系の超伝導転移における面内磁場方向依存性から超伝導状態の一軸性(ネマティシティ)を観測し、その結果を通して強誘電性や多軌道性が共存した新たなネマティック超伝導状態を検証する予定であった。しかし2020年度の研究により、超伝導になる前段階の常伝導状態において、すでに強誘電性や多軌道性を含んだ金属状態の存在が明らかとなった。さらにこれらの性質の強弱はキャリア密度により変化することもわかった。よって、低温でおこる超伝導状態では強誘電性と多軌道性があるバランスをもって共存することがほぼ確実になった。超伝導状態に達する前段階でこれらの性質が明瞭に現れることは予想外の結果であり、この点は当初の予定を超えて進展した点である。一方、常伝導状態における電気抵抗のキャリア密度依存性や磁場依存性を詳細に調べることに多くの時間を費やした結果、超伝導転移の確認したことを除いて、超伝導状態に現れるネマティシティの効果を広範囲なキャリア密度にわたって調べるという当初計画は遅れることになった。ただしその同定に時間がかかるとはずであった強誘電性と超伝導性の共存するキャリア密度条件が、2020年度の研究によりすでに明確になったことより、今後より的を絞った研究を行うことが可能となった。以上の結果より、研究の方向性は当初の目的から大きく外れることはなく狙い通りに進んでおり、2021年度は新規ネマティック超伝導の発現条件や特徴・独自性が順次明らかになることが見込まれる。よって計画全体を見ると本研究課題の進捗状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度にSrTiO3-EDLTにおいて強誘電性と金属性が共存する電子状態が存在することが明らかになったため、この強誘電性が顕著に現れるキャリア密度(単位胞面積当たり0.1~0.3個)に的を絞り、強誘電性との共存状態にある超伝導特性からネマティック超伝導現象の有無とその発現条件、さらにその特徴・独自性について、下記のような段階を踏んで研究を行い、本研究の目的を達成する。 まず、超伝導転移領域の温度における電気抵抗の面内方位依存性を詳細に測定することにより、ネマティック超伝導の特徴である面内方位に対する2回振動現象(一軸性)の存在を明らかにする。さらに得られる2回振動の大きさをネマティシティの指標として、超伝導転移温度、キュリー温度、キャリア密度との関係を調べることにより、ネマティック超伝導の発現条件を明らかにする。これらにより強誘電性由来の一軸性が観測されれば、新規条件によるネマティック超伝導の発見となるだけでなく、未解明な問題として議論が続くSrTiO3の超伝導機構に対して強誘電性的ネマティックゆらぎという新たなモデルが適用可能かどうか確認できる。 次に、超伝導転移より十分低い温度(基底状態)での面内臨界磁場の磁場方位依存性を調べることにより、超伝導ギャップに関する面内異方性を明らかにする。これにより超伝導特性に対するネマティシティの効果を定量的に評価できる。 上記の実験が順調に進んだら、ネマティック超伝導状態の特徴の一つであるマルチドメイン構造の発生を試みる。これは系のサイズを大きくすることにより、超伝導転移の面内方位に対する2回対称性が4回対称性のものへ変化する現象として捉えられると予測している。これが確認できたら、ドメイン構造をサイズ、電流の方位、電流密度により制御することにより、この系で現れるネマティック超伝導の独自性を明らかにする。
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