研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣井 善二 東京大学, 物性研究所, 教授 (30192719)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピン軌道結合金属 / 多極子秩序 |
研究実績の概要 |
金属伝導を示す物質の性質はフェルミ面で特徴付けられる伝導電子の振る舞いにより決定される。一般にフェルミ面は様々な相互作用に対して不安定となり、その典型例が電子格子相互作用によるギャップの生成と超伝導の発現である。本研究では、新たな分野としてスピン軌道相互作用による不安定性を有するスピン軌道結合金属に注目し、そこでのフェルミ面不安定性がもたらす特異な奇パリティ電子秩序を研究する。この不安定性は自発的に結晶の空間反転対称性を破り、フェルミ面にスピン分裂を引き起こす。スピン軌道結合金属の例はパイロクロア酸化物Cd2Re2O7に限られており、その物理を確立するには新規な候補物質の探索が必要である。 本年度は主に新物質探索を行った。PbRe2O6は30年以上前にその合成と室温において空間反転対称性を有する結晶構造をもつことが報告されたが、その後に研究を行われていない。PbRe2O6はCd2Re2O7とよく似た2つの逐次相転移を示すことを見出した。その詳細な物性評価のための大型単結晶作製に向けて、原料の純良化と合成条件の最適化を図り合成手法を確立した。さらに、輸送特性測定、磁化測定、比熱測定を通して、逐次相転移の様子を明らかにすることを試みている。 一方、新たな物性研究の舞台となる可能性のある物質系として、ノーダルライン半金属NaAlSiの研究も行った。NaAlSiは7Kで超伝導を示すが、特異な2段転移が観測され、バルクの超伝導が磁場によって抑制された後に何らかの部分的な超伝導状態の存在が示唆されている。これが結晶表面における超伝導であることを実験的に確立することを目指して、単結晶試料の電気抵抗の磁場方位依存性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PbRe2O6に関する研究は概ね順調であるが、物性評価に遅れが生じている。NaAlSiでは単結晶の試料依存性が大きく、電気抵抗の振る舞いが何を意味するのか明らかにできていない。しかし、これは逆に通常とは異なる超伝導状態が確かに存在する事の証であると考えられ、新奇な現象の発見に近づいている感触を持っている。
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今後の研究の推進方策 |
PbRe2O6に関してはさらに物性測定を行い、その全容を明らかにする。NaAlSiでは単結晶の試料依存性を詳細に検討する。さらに、これまでのガリウムフラックス法によって育成された結晶中に数%のガリウムが混在していたことを見出したため、ガリウムを用いないセルフフラックス法による結晶育成を行う。これによって、より本質的な現象が明らかになると期待される。
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