本年度は特にCd2Re2O7の構造転移に関する実験を行った。スピン結合金属には反転対称性を破る相転移が期待されるが、実際の物質ではさらに複雑な相転移系列が観測される。結晶構造に関する情報は、電子系の不安定性と結合する多極子自由度の特定に欠かせないが、これまで信頼のできるデータが得られていなかった。その理由は構造転移に伴う歪みが非常に小さいことから、通常の実験ではこれを分解できないことにあった。本研究では、超高分解能放射光X線回折を駆使してピーク分離に成功し、格子定数の温度変化を初めて決定した。その結果、これまで1次転移と思われていた120Kにおける正方晶Ⅱ相からⅢ相への転移が、115Kと100Kの2段の2次転移からなることを明らかにした。その中間温度領域には直方晶相XIが存在する。これらの相転移系列はEu秩序変数で見事に説明された。この発見はスピン軌道結合金属の典型であるCd2Re2O7のフェルミ液体不安定性を理解する上で重要な知見を与えた。 昨年度から継続して、NaAlSiの表面超伝導に関する研究を行った。その結果、結晶の(101)側面において部分的な超伝導が起こっている可能性を指摘した。そのTcはバルクとほぼ同じだが、幾何学的配置からより大きな上部臨界磁場をもつため、バルクの超伝導が磁場により抑制されても生き残る。さらに共同研究による磁気トルクの測定を通して、(001)表面でも表面超伝導が起こっていることが分かった。これらの表面超伝導状態はその起源がトポロジカル表面状態と関係していることが期待されている。
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