研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
20H05158
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米澤 進吾 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30523584)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネマティック超伝導 / fiber Bragg grating / FBG / 多軸ひずみ同時測定技術 / ドープしたBi2Se3 / 一軸性ひずみ |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、「量子液晶」において重要となる異方的な自己組織化に伴う回転対称性の破れを熱力学的に検出ための手法として、光ファイバーセンサーfiber Bragg grating(FBG)を用いた多軸ひずみ同時測定技術を提案・構築することである。FBGは光ファイバー内に周期的変調を書き込んだもので、そこで起こるブラッグ反射を光学測定で精緻に検出することで、強力な性質を持つひずみゲージとして使用できる。 本年度はFBG技術の細部をより最適化する研究を行った。例えば、接着方法を試行錯誤したり、現在保有している光学計に「スクランブラーオプション」を導入して偏波の影響を小さくしたりすることで、ひずみ測定の安定性の向上を図った。 また、これらの技術を用いてSrドープしたBi2Se3におけるネマティック超伝導でのひずみ観測実験を行い、ネマティック超伝導転移に伴うひずみの自発的変化の有無を検証した。その結果、10^(-7)ひずみのレベルで自発的ひずみは生じていないことが分かった。慎重な検証も必要であるが、このことの原因としてはこの系の電子系と格子系の相互作用が小さいこと、もしくはネマティックドメインの影響が大きいことなどが考えられる。 また、一軸性ひずみをに能動的に印加することでネマティック超伝導性を制御する研究を行い、Nature Communications誌に論文を発表した。この研究によって、1%程度の圧縮ひずみを印加すればネマティック超伝導のドメインを制御できることが初めて明らかになった。 他に、ネマティック性と相補的な関係にある時間反転対称性破れを検出する超高感度の光磁気効果測定装置の開発や、電流によって超伝導ネマティシティーを誘起する試みにも着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の第一の目標であるFBG技術の最適化するに関しては、接着方法や解析方法についてしっかりとしためどがついた。FBGについての研究会での議論なども経て、現在技術面に主眼を置いた論文を執筆中である。 また、これらの技術を用いてSrドープしたBi2Se3におけるネマティック超伝導でのひずみ観測実験を行い、ネマティック超伝導転移に伴うひずみの自発的変化の有無を検証した。残念ながら、10^(-7)ひずみのレベルで自発的ひずみは生じていないことが分かったが、現在この結果をCuxBi2Se3についても検証している。もしこのことが事実であれば、この系の電子系と格子系の相互作用が小さいことやドメイン構造の影響が大きいことを示唆しており、以下のひずみ印可実験の結果とも整合する。 以前から進めていた一軸性ひずみを能動的に印加することでネマティック超伝導性を制御する研究に関しては、解析と論文執筆を進め、Nature Communications誌に論文を発表することができた。また、同誌の注目論文を紹介するEditors' Highlightsに取り上げていただいた。この研究によって、1%程度の圧縮ひずみを印加すればネマティック超伝導のドメインを制御できることが初めて明らかになった。この必要なひずみの大きさは当初の予想より1桁以上大きかったため、この系のネマティック超伝導と格子系の相互作用が小さく、その分大きなひずみの印加が必要であることを示唆している。 他に、FBG以外にも、ネマティック性と相補的な関係にある時間反転対称性破れを検出する超高感度の光磁気効果測定装置の開発や、電流によって超伝導ネマティシティーを誘起する試みにも着手しており、量子液晶領域内での共同研究もスタートした。
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今後の研究の推進方策 |
〈FBGを用いたネマティック超伝導の自発ひずみ実験のまとめ〉昨年度行ったネマティック超伝導に対するひずみ測定実験に関して、データの最終的な確認を行い、技術面も含めた論文を執筆する。 〈ベクトルマグネット装置とFBG技術の融合〉代表者が保有しているベクトルマグネット装置でFBGを使える環境を引き続き整備する。希釈冷凍機や4He冷凍機にFBGを導入し、ベクトルマグネットで使えるようにする。このようにして、幅広い温度域でベクトル磁場下でのFBG測定を可能とする。 〈一軸応力印加装置とFBG技術の融合〉ネマティックな量子液晶の場合、外からある程度の応力を印加しないと、ドメインを形成してしまい、マクロなひずみには回転対称性破れに伴う異常が顕れない可能性がある。外部から一軸応力を印加した状態で試料に生じるひずみを計測できるようにするため、ピエゾ素子を用いた一軸応力印加装置とFBG測定技術を組み合わせる。また、この技術を用い、応力とひずみの関係からネマティック感受率に対応する量を得ることも目指す。鉄ヒ素系など、典型的なネマティック系で実験を行う。 〈そのほかの量子液晶系の実験〉また、Sr2RuO4における電流下の超伝導現象について、論文を執筆する。また他のネマティック超伝導の候補物質に関して、上記の実験だけでなく、より基礎的な実験も含めて行う。また、光磁気効果測定の技術開発を進め、量子液晶系の時間反転対称性の破れの検出に利用したり、装置をさらに工夫して回転対称性の破れを検出する試みも進める。
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